最初は、少し笑っていた。
「ずいぶん怒りっぽい部長だなあ」と。
ところが読み進めるほど、その笑いが少しずつ引いていく。
謹慎明け。
いつもの会社へ出社したはずなのに、なぜか何もかもがおかしい。
誰かの態度。
いつもと違う空気。
噛み合わない日常。
ひとつひとつは些細なのに、その違和感が重なるたび、じわじわと不穏さが増していきます。
面白いのは、読んでいるこちらまで、いつの間にかこの部長の視界の中へ閉じ込められていることです。
周囲への苛立ち。
自分を正当化する言葉。
そして、その奥から少しずつ覗き始める、彼自身の疲れや孤独。
もちろん、彼のしてきたことを簡単に肯定することはできない。
けれど、「嫌な上司だった」で切り捨てようとすると、それだけでは終われない何かが残る。
もしかすると、人を追い詰めた人間もまた、別の何かに追い詰められていたのかもしれない。
そんなやるせなさが、コミカルにも見える語り口の下から静かに滲んできます。
そして、読み終えたあと。
タイトルの「うっかり」という言葉が、妙に怖い。
短い。
読みやすい。
少し可笑しい。
なのに、最後には背中に冷たいものが残る。
派手に驚かせるのではなく、日常のすぐ隣にある違和感から、静かにこちらを怖がらせてくる。
そんな余韻の深い短編ホラーでした。