約束

 やがて笑い声が収まると、この後はどうするか、という話になった。


 今日の目的は達成したので、ここで解散をしても何も問題は無いのだが、なんとなくまだ坂上と一緒に居たい、と僕は思った。


「坂上さん、良かったらこの後少し歩かない? 近くに金運アップのパワースポットとして有名な神社があるんだ」


 すると、坂上は僕の言葉に目を輝かせた。


「金運アップ!? 行きたい!」


「坂上さん、お金が好きなの?」


 あまりの食い付き振りに僕がそう尋ねると、坂上は真顔になった。


「お金が好きじゃない人っているの?」


「……確かにあまり居ないかも」


 坂上の真剣なトーンに押されつつ、僕はそう言って苦笑いをすると僕達は席を立ったのだった。


 僕達はトンネルを再び鼻歌交じりで通ると、先程とは別の山の方に向かった。


「こんなにもたくさんの山があると、この辺に住んでいる人達は皆、山登りで足腰が鍛えられていそうだね」


「……山の上にあるのは神社の方が多いからここら辺に住んでいる人はあまり登らないかも、逆に観光に来た人達の方が足腰が鍛えられていると思うよ」


 神社に向かう為の山に沿った坂道を歩きながら呟いた坂上に僕が言葉を返すと、坂上は笑みを浮かべた。


「確かに、それだったらさっき、あんなにも息も絶え絶えって感じにはならないはずだもんね」


 坂上のその言葉を聞いて、自分の醜態で自分の説を実証してしまった事に気が付いた僕は顔が熱くなるのを感じながら、「……その事は忘れてくれると助かります」と、小さな声で呟いた。


「それは、宇多川君の今後の行い次第だね」


 坂上は冗談めかしてそう言うと、疲れをまるで感じさせない軽やかな足取りで僕の先を進み始めた。


 とてもでは無いが、この坂道を歩く為に多くの体力を使ってしまった僕には坂上のペースに追い付けるはずも無かった。


「宇多川君、入り口が見えてきたよ! 早く、早く!」


 僕より大分先に進んでからこちらを振り返って手を振る坂上を見て、早く追い付かなければ、と自分を鼓舞すると、僕は再び足を一歩踏み出したのだった。


 神社に足を踏み入れて、手水舎で手を洗って身を清めると、僕は坂上を連れて受付に向かった。


 受付でお金を払い、線香とザルを二セット受け取ると、僕はその内の一セットを坂上に手渡した。


「この二つを使うの?」


 坂上の質問に僕は頷くと、「こっちだよ」と、声を掛けた。


 受付の横を進むと火が付いている蝋燭ろうそくが立っている前で僕は足を止めた。


「ここで線香に火を付けてから線香台に納めるんだ」


 そう言うと、僕は蝋燭から線香に火を貰うと、線香台に立てた。


 坂上も僕の真似をして線香台に線香を立てたのを確認すると、僕は線香の煙を浴びる事が出来る位置に身体を移動させた。


「こうして煙を浴びて身を清めるんだって」


 僕の説明に坂上は、「成程」と言って頷くと、僕の隣に立って二人で一緒に煙を浴びた。


 そして、煙を浴びて身を清めると、「いよいよ本番だよ」と坂上に声を掛けると、僕は坂上を連れて洞窟どうくつの中に入った。


 洞窟の中には池の様な水が溜まっている場所があり、僕はそこを指差した。


「あそこでお金を洗うんだ」


 そう言うと僕は財布から千円札を取り出すと、ザルの上に置いた。


「成程、ザルはそう使うんだね」


 そう言った坂上が僕と同じ様に千円札をザルの上に置いたのを見て、僕は柄杓ひしゃくを手に取って水をすくうと、そのまま千円札に掛けた。


「こうやってお金を清めると、金運アップの効果があるかもしれないんだって」


「よし、じゃあ、私もやってみよう」


 坂上はそう言うと、柄杓を手に取って僕と同じ様に千円札に水を掛けた。


 その後、僕と坂上はそれぞれのハンカチで千円札の水気を取ってからザルを近くにあった台の上に置くと、神社を出ようとした。


「あっ、見て、宇多川君。これってお祭りのポスター?」


 その声に僕は足を止めると、坂上が指差したポスターに目を向けた。


「そうだね、毎年この時期になるとやっているお祭りだね」


「そうなんだ。ここに書いてある場所って近いの?」


「ここからだと駅を挟んで反対側だけど、駅からだとそんなに離れていないよ」


「開催日は明日か。良いなぁ」


 その様子を見て僕は、坂上がそのお祭りに行きたがっている、と感じた。


 そう思うと、お祭りに誘いたい気持ちが大きくなってきた。


「坂上さん、その、良かったら明日一緒にお祭りに行く?」


「えっ、良いの? 行きたい!」


 断られたり、嫌な顔をされたらどうしよう、と緊張しながら尋ねると、坂上はそう言って嬉しそうな表情を浮かべたので、僕は安心した気持ちになった。


「そうしたら、夕方辺りに集合しようか。場所は後でメッセージを送るよ」


「うん、ありがとう。このお祭りって屋台もあるんだよね。楽しみだなぁ」


 その後、僕と坂上は明日のお祭りの話をしながら駅に向かったのだった。

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