マジックアイテム
──気が付けば、朝だった。
「すみませんでした……!」
「気にしなくていい。疲れていたんだろう」
一向に起きてこないアリーシャを心配して、ノアは夜に一度訪ねてきたそうだ。まったく気付かなかった。どうりでシーツがかけられていたわけだ。
そして、朝。コンコン、と扉を叩く音でようやく目を覚ました。寝ぼけ眼で扉を開けると、そこにはノアが立っていて、事態を把握。急いで湯浴みをし、身支度を整え、今に至るというわけだ。
ダイニングルームへ向かいアリーシャとノアが席に着くと、次々と朝食が運ばれてきた。焼き立てのパン、色とりどりの新鮮な野菜のサラダ。あたたかいコーンスープに、サニーサイドアップ。そこにはカリカリに焼かれたベーコンらしきものも添えられている。
ティンタジェルの村で食べたときも、元の世界にあるような食事ばかりだった。異なることもあれば、同じこともある。世界は違うのに不思議だと思いつつ、アリーシャは「いただきます」と呟くと、スープを口にした。舌触りが滑らかでまったりとしていて、優しい味が寝起きの身体に染み渡る。
今度はパンを手に取り、バターを塗って食べてみる。サク、とした歯ごたえがあったかと思うと、中はふわふわで非常においしい。バターもじゅわりと口の中に広がり、パンの香ばしさを更に引き立てる。次はサラダ、とフォークを手に取ったとき、ノアに名を呼ばれた。ぴたりと動きを止めて彼を見れば、小さく吹き出していた。
「おいしそうに食べているところすまない」
「は、はい。なんでしょう」
恥ずかしい。顔に出ていたのだろうか。だが、どれもおいしいのだ。
「昨日言っていた宝石の欠片が届いたんだ。あとで一緒に見に行こう」
「ありがたいですが、もう届いたのですか!?」
「モルガンでは宝石の加工業が盛んだからな。欠片はいくらでも手に入る」
こんなにも簡単に手に入るとは。明日に、と言っていた意味がわかった。
そのあと、二人は話しながら朝食を食べ、食後のコーヒー、紅茶を嗜むと食堂を出た。宝石の欠片は大量にあるようで、あまり使われていないかつ広めの部屋に置いてあるとのこと。ノアに案内され、廊下を歩いていく。今はどこを歩いているのだろうか。道を覚えられるのだろうかと頭を悩ませていると、ノアが両開きの扉の前で足を止めた。
「ここだ」
扉を開けると、ノアが言っていたとおり中は広く、大きな幅広の長机がいくつも置かれていた。その上には大量の宝石の欠片が並んでいる。
「すみません。ここまで準備をしていただいて」
「これくらい問題ない。それで、この欠片に魔法を込めるのか?」
アリーシャは長机に近付き、淡い青色をした宝石の欠片を一つ手に取った。歪な形などまったく気にならないほど、キラキラと輝いている。ノアも隣にやってきて、アリーシャを同じように宝石の欠片を一つ手に取った。人差し指と親指で挟み、その間でコロコロと転がしている。
「はい、まずはここに魔力を込めて、そのあとに魔法をかけます」
「すごいな、楽しみだ」
「では、一つ試してみましょうか」
手にしていた淡い青色の宝石の欠片を握り、魔力を込めた。その瞬間、眩い光が発生し、ノアは目を細めている。
魔力が込められているとき、宝石の欠片は光り輝く。しかし、これは。アリーシャが眉を顰めると、しばらくして光は消え、手の中にある宝石の欠片の感触が変わってしまった。
「……失敗ですね」
「そうなのか? とても綺麗な輝きを放っていたが」
「魔力は込められるのですが、それぞれに容量というものがあります。治癒魔法に必要な分の魔力が込められるものでなければ、崩れてしまうのです」
このように、と手を開いた。今し方まで輝いていた宝石の欠片は、炭のように黒くなり粉々になっている。
「魔力がそこまで必要のない魔法なら込められたのかもしれませんね」
「なるほど、手探りというわけか。俺が手伝えればいいんだが」
「ありがとうございます。大丈夫ですよ、これだけあればすぐに見つかります」
「ん……では、最初に作ったものを、俺に試させてほしい」
ノアの提案に目を丸くする。
魔導書を読んで試すときは、自分自身で試してきた。そうでなければ、魔法が発現した場合、相手を大変な目に遭わせてしまうかもしれないからだ。
今回の場合、治癒魔法を込めた宝石を試すとなれば、ノアには何かしらの怪我を負ってもらうことになる。そんなこと、頼めるわけがない。
と、アリーシャが考えていることなど、ノアはお見通しなのだろう。ふ、と小さく笑い、宝石の欠片を持っていない手を自身の胸に当てた。
「傷などいくらでも負ってきた。それに、アリーシャが作ったものなら、俺が最初に試したい」
「……マジックアイテムの作成は初めてで。うまくいくかどうか」
「そのときはそのときだ。うまくいかなければ、アリーシャが魔法で治してくれるだろう?」
もちろんです、とアリーシャは力強く何度も頷く。
それでも、それでもだ。本当にいいのだろうか。迷っていると、扉をノックする音が響いた。ノアの表情は一転し、凛としたものに変わる。
「入れ」
「失礼いたします。ノア様、ルカ様がお呼びです」
入ってきたのは一人の兵士。敬礼し、ここに来た理由を話す。
ルカとは、ノアの兄の名だったはず。昨日は留守にしているとの話だったが、戻ってきたのだろうか。ノアが「わかった」と短く返事をすると、兵士は再び敬礼し部屋を出て行く。先程までの凛とした表情はどこへやら。ノアは眉間に皺を寄せ、嫌だと言わんばかりの顔をしている。会いたくないのだろうか。
「……少し出てくる」
「い、いってらっしゃい。あ、そうだ。お時間があればご挨拶に伺いたいので、その旨をお伝え願えますか?」
「挨拶……わかった」
別にいいのに、と呟いた気もしないでもないが、ノアは部屋を出て行った。
「では、ノアが戻ってくるまでに少しでも進めなければ」
真っ黒になってしまった宝石の欠片は机の端に置き、別の欠片を手にする。魔力を込め、少しして様子を確認。黒くなっていれば、机の端に置いた。
何度も何度も、その作業を繰り返す。黒くなってしまった宝石の欠片の数が増え続けるも、少しずつだが魔力を込めても問題がない宝石の欠片も見つかり始めた。
黒くならずに光り輝く宝石の欠片が机の上に並び始める。その様子に胸を撫で下ろし、別の宝石の欠片を手に取った、そのときだった。
「とても綺麗な光ですね」
すぐ後ろから、声が聞こえた。
「ひゃあ!?」
集中が途切れ、間抜けな叫び声を上げると同時に、手に持っていた宝石の欠片が床に落ちた。
まったく気配を感じなかった。一体誰なのかと振り向くと、そこにはクリーム色の髪をした、赤い瞳の男性が立っていた。
身長はノアよりも高く、見るからに筋骨逞しい身体をしている。アリーシャの叫び声に驚いたのか、少したれ目気味の赤い瞳は大きく見開かれていた。
(もしかして、この方は)
顔立ちも、目元以外はノアとよく似ている。何より、ノアと同じ赤い瞳。
驚きから固まっているアリーシャの傍で、男性は片膝をついた。
「驚かせてしまって申し訳ない。私はレオ。レオ・フォン・モルガン。この国の第一王子です。はじめまして、アリーシャさん」
レオは微笑むと、アリーシャの右手を取り、軽く口付けた。
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