6 マチオとくんれん

見物客たちはマチオたちとは大きく距離を取り、

即席ではあるが、道の中央に闘技場が出来ていた。

マチオとハーフオークが距離を取って立つ。

マチオのそばにルイーゼが近づき、小声で話しかけた。

「・・・マチオ様。こんなことになってすみません・・・。」

泣きそうな顔でルイーゼが言った。

「いや。木刀が使える状況になって助かった。

 今はどちらかというと、殺さないように手加減できるかどうか心配してる。

 大丈夫だから、離れて見ててくれ。」

「・・・分かりました。マチオ様。ご無事で。」

そう言うと、ルイーゼはマチオから離れた。


と、恰好をつけてみたマチオであったが、内心は不安でいっぱいであった。

このまま走って逃げたい気持ちをぐっとこらえ、ハーフオークを見据えた。


ハーフオークは背中から巨大な棍棒を取ると、片手で持ち、軽々と肩に担いだ。

マチオでは持ち上げることすらできないだろう。それほど巨大な棍棒。

マチオは背中から木刀を取り、両手で構える。


「殺しはしないから、掛かってこい。」

ハーフオークはいやらしく笑みを浮かべると、左手をのばしマチオを手招く。


マチオが木刀を構えたまま数歩間合いを詰める。

まだお互いの間合いには入っていない。はずだが。

ハーフオークは肩に担いだ棍棒を振り下ろした。

ドン!

棍棒はマチオに届く事は無く地面を叩き付け、地面から土煙が上がる。

そのまま引き上げ、再度肩に担ぐ。

地面は大きく抉られ、衝撃の強さを物語っていた。

ハーフオークがニヤッと笑みを浮かべる。


なんだぁ?!。あんな攻撃受けたら無事では済まないぞ。


マチオの足が止まる。

木刀を持つ手は汗でびしょびしょである。

ハーフオークが間合いを詰める。これはハーフオークの間合いだが、、まだマチオの間合いではない。

ハーフオークが棍棒を振り下ろす。

ゴン!

マチオはとっさに両手を使い木刀の背で受け止めるが、衝撃で体が沈む。

「ぐっ!」

ハーフオークは棍棒を振り上げ、再度振り下ろす。

ゴン!

「ぐはっ!」

マチオの体がさらに沈む。

ハーフオークは棍棒を振り上げ、振り下ろす。

あくまでも力でねじ伏せるつもりなのだろうか。

が、マチオは今度は受けず、1歩大きくバックステップする。

ドン!

棍棒は地面に当たり土煙を上げる。


力は全くかなわないけど、スピードだけならオレと同じ程度・・・のような気がする。

これなら何とかなるかもしれない。


ハーフオークは大きく踏み込んで横なぎに棍棒を振るうが、マチオは数歩横にステップしかわす。

「ちょこまかしやがって!」

さらにハーフオークは戻す棍棒をそのまま振るが、

それもマチオは後ろに下がりかわす。

「チイッ!」


ハーフオークはひときわ大きく踏み込むと、真上に振り上げた棍棒を力任せにマチオに向かって叩き付ける。

が、マチオは避けることなく木刀を両手で構え、そして受けた。


背ではなく、刃の部分で。


ゴキン!

木同士のぶつかる音とは程遠い、甲高い音が響く。


木刀の10倍以上も太い棍棒の根元が粉砕され、折れた先端部分がマチオ頭上を越え、背後に音を立てて落ちる。

「なにぃ?!!!!」

ハーフオークが叫ぶ。

そのままマチオは木刀を振り上げると、木刀をひっくり返し、木刀の背をハーフオークの手首に向かって振り下ろした。

めきぃぃぃぃっ!

棍棒の柄だけを持ったハーフオークの手首が本来曲がってはいけない方向に曲がる。

「がぁぁぁぁっ!」

ハーフオークが叫んで、手首を抱えてうずくまる。

「まだ『くんれん』とやらを続けるか?」

マチオは目の前のハーフオークの首元に木刀を当て、冷ややかに言った。

「くそが。覚えてろよ!」

ハーフオークが苦々しく言う。

マチオは何も言わず、ハーフオークを見つめたまま木刀を振り上げる。

「まて!まて!わーったよ。オレの負けだ!喧嘩売って悪かったよ!」

マチオはゆっくりと木刀を下げ、もう一度首元に当てる。

「つぎにオレの連れに手を出したら・・・、分かってるな?」

「わーったよ。あんたが強いことはよく分かった。

 おまえらには手ぇ出さないようにオレの仲間にも言っておく。

 ・・・

 オレの名前はマグロックだ。

 あんたの名前を教えてもらえるか?」

「マチオだ。」

そう言うとマチオは木刀を下ろした。


ヤバい。今頃になってすごく怖くなってきた。

なんとか勝てて本当に良かった・・・。


ルイーゼが駆け寄ってくる。

「マチオ様!怪我はないですか?!」

「ああ、オレは問題ない。それよりあいつの怪我を治してもらえるか?

 手首の骨をへし折ってしまった。」

「・・・治療して、大丈夫なんですか?」

「ああ。これから先、オレらには手を出さないことを約束してくれた。

 だから頼む。」

「マチオ様がそういうのなら・・・。」

ルイーゼがうずくまるマグロックに近づき、詠唱を始めた。

杖が緑色に光り、それがまとまり、マグロックの手首に吸い込まれた。

手首が薄く緑色に光りながら骨が元に戻っていく。

「しばらく痛みや違和感があると思いますけど、そのうち治ります。

 違和感があったら、病院に行ってください。」

ルイーゼは立ち上がり、マチオに振り返る。

「マチオ様!、危険な目に合わせてしまいすみませんでした!」

ルイーゼが深々と頭を下げる。

「心配してくれてありがとうな。」

マチオは笑いながらルイーゼの頭を撫でた。


マチオとルイーゼは雑貨屋に行こうと群衆に近づいた。

「あんちゃん、すげぇな。マグロックに勝っちまうなんて!」

「あいつら腕は立つが暴れん坊で困ってたんだよ!」

「木の剣って強いんだな!。俺も1本買おうかな。」

群衆に肩を叩かれ、声を掛けられながら2人は雑貨屋に逃げ込んだ。


店に入ると誰もいなかった。

すると、慌てた店員が群衆をかき分け、店の中に駆けこんできた。

はぁはぁと肩で息をしている。

「おにいさん、強いんですね~。」

「いや、そんなことはないぞ。作戦勝ちというかなんというか。」

「マグロックはこの辺りの暴れん坊たちのグループのリーダーで、

 レベルが30とか40とかって聞いたことありますよ。

 っていうか、木の剣ってあんなに強いんですね~。知らなかったです。」


いや、オレレベル4だし。

マグロックも全く本気でなかったみたいだしな。

この木刀が無かったら今頃どうなってたか。

本気のマグロックと戦うとか。

想像もしたくもない。


「で、入れ物は?」

「あ、そうでした。出来てますよ。こちらです。」

店員がカウンターの下からベルトのついた入れ物を取り出す。

マチオは受け取ると、早速背中に背負い、ベルトを締め、木刀を入れた。

「うん。いい感じだ。ルイーゼ。どうかな?」

ルイーゼが背中に回り入れ物を見る。

「いいですね。

 ぱっと見、ぜんぜん木刀には見えないんで、すごくいいと思います!」


2人は良い買い物ができたことを喜び、雑貨屋を後にした。

すでに群衆は散っており、マグロックもどこかに立ち去っていた。


「さすがに疲れたな。宿に帰ろうか。」

「はい!」

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