第7話援軍到来

 俺は今、魔法使いたちとダンジョンを進んでいる。

 もう話をするような雰囲気ではない。そして、少し落ち着いた俺はこうやって描写を再開しつつさっきのことについて考えている。

 子供が目を見開いた瞬間だった。体中を一気に恐怖が襲った。心臓を握られているかのような感覚を覚え、俺は逃げるように地面に尻を着けた。同じだ。第何話かは忘れたけどあの主婦と会ったときと同じだ。いや、厳密には少し感覚は違かったが。

 最初はてっきり自分の本能が過敏に危機を感じ取っているのだと思った。というか普通に怖すぎてあんまり考えてなかったが、そもそも平凡な日本人だった俺の本能は命の危険のないぬるま湯に浸かり続けて鈍りきっているはず。例え相手が化け物だとしても、異常な反応だった。しかも、なんか子供にも反応したし。

 だとするとだ。これはやはり……スキルとかなのではないだろうか。そう、『威圧』みたいな。俺はスキルによって絶対的な恐怖と屈服を強制されたのだ。確かに俺は異世界転移したて。レベルみたいなのがあったら低いはずだ。だからこそ、『威圧』の効果を俺はあそこまでモロに食らった。そう考えると、納得がいく。         

 本当に普通の主婦にしか見えないお姉さんだったが、その正体はただ『威圧』を持った厳しいおばさんだったのだ。

 スキルを使われただけって思うと、途端に話しかけても良い気がしてくるな。このガキもびっくりしただろ、俺の怖がり方見て。……いやそんな素振りは無かったか。

 俺がスキルの存在を確信していると、目的地にはすぐ着いた。部屋だ。一定だったトンネルの直径ががくんと広がり、部屋というべき丸い空間を作り出している。中では、さっき別れた筋肉たちが荷を解いていた。地面にはひと一人分程の緑色の布が幾つも敷かれ、一定間隔にランプが置かれている。その奥に、銀色の塊が見える。よく見れば、継ぎ目が見えないほどに整然と並んだ騎士たちであることがわかった。あれ絶対国を守る騎士団とかでしょやっぱ。

 魔法使いたちは部屋の中央に歩を進めていく。何故か俺はこの集団の中で歩かされている。しかも前の方。これは今俺はどういう扱いなのだろうか。敵に背を向けた愚かな離反者みたいな扱いだったりしないよな。逃げてないって言ったのに。

 部屋の中央付近には、二人の男が立っていた。一人は、筋肉たちの頭領だ。

 筋肉たちの中でも一際身体がでかい。スキンヘッドゴリラも凄まじい肉体をしていたが、質量というか、重厚感?見る者に伝えてくる重みが全く違う。その上ではぼさぼさの白くなった鬣が顔の周りを覆い、黒い肌の中に金色の眼が光っている。

 これ、種族違くないか?人間とは思えない。雰囲気だけでいったら獅子の獣人という感じだ。尻尾も耳も見当たらないが。

 そしてもう一人は、騎士。こちらも、負けず劣らずの凄まじい肩幅だ。全身を銀色の分厚い鎧で包み、腕を組んで仁王立ちしている。他の騎士が剣を腰に差している中、彼の背中には自分の分身のような巨大な大剣が聳え立っていた。

 二人の豪傑は地面に広げた大きな地図を見ていた。すると、そこにさっきのガキが歩いていく。偉そうだなとは思ったが、ほんとにリーダー的な存在だったんだな。ガキって呼ぶの止めよう。

 集まったそれぞれの長たる三人は、地図を見ながら話し合いを始めた。距離的にそこそこ聞こえる。これ絶対聞いといたほうがいいよなと耳を欹てていたら、右肩をちょんとつつかれた。振り向くと、一番前に居た女の子だった。

「あなた……どこの所属の人?」

 囁くような、透き通る声だった。そしてかわいい。暖色の光の中で分かりづらいが、多分赤い髪。

 で、所属とは?いやそりゃあもちろんカットした所で何かに所属したということもなく、転移したての俺に所属なんてものあるわけはない。強いていうならば冒険者ギルドに所属しようとはしていたが。

「特にどこにも……所属してないです。……これから冒険者ギルドに登録しようと……思ってたところで」

 素直に答える俺に、彼女は薄い眉を顰めた。

「……じゃあなんでここにいるんですか?」

 たしかに。いやたしかに。なんでいるんだっけ。ただ冒険者ギルドを目指していただけなのに。

 ……よくよく考えると、状況的にはスキンヘッドゴリラに連れ去られた形にはなるか、俺。いやまあ、紛らわしいところにいたのは事実ですし、彼は恩人であるといのは間違いないんですけど。というか、俺が冒険者ギルドに行きたかったのは物語を進めたかったからだけど、援軍としてダンジョンの中に駆けつけるっていうこの状況の方が面白いんだよな。つまり、なぜここにいるかというと……。

「なんか……魔術師と勘違いされたみたいで、ここに連れてこられました」

 スキンヘッドを売るしかないということだ。まだ冒険者でもない一般人をダンジョンに連れてきてしまった。そんな大きい罪ではなさそうだし、許してくれゴリラ。

 女の子は困惑の表情をさらに深めて言った。

「誰に?」

「誰っていうと……あー、どこだろう。……あ、あそこの今火を起こしてるスキンヘッドのゴ……人です」

 スキンヘッドを指差す。もう完全に売ったな。いやでも俺は事実を述べているだけで……。

「……はぁ……ではどうやって?」

「肩車です」

 彼女の顔が、困惑から違う何かに移るのを感じた。いや確かに、自分で言ってても意味わかんないなとは思う。でも、ここで信用を失うのはまずい。

「あの、本当です。えーっとですね、あの方いるじゃないですか、あの子。黄緑色の髪の。あの子がさっきやってきた、威圧みたいなやつ。あれと同じやつをされたんですよ、迷宮都市で。それで夢中で、本当に夢中で逃げていたら、気がついたらあの……ムキムキの人たちの中にいて、そしたらスキンヘッドの人が肩車してくれて、それで……」

 今、目の前の彼女は俺のことをどう思っているのだろうか。俺は必死に説明している。冗談を言っているわけではないというのは伝わっているだろう。だが、彼女の顔は到底納得したというようなものではない。弁明したい。別に怪しいものではないと。けれど、これ以上言えることが無い。だって俺は、この世界についさっきまでいなかったのだから。この世界をここまで生きてきたという足跡がないのだから。

 どうしよう。記憶喪失だと言うか?実際それはテンプレだ。だけど、俺はこの目の前の女の子を相手に、今までの記憶が無いんだ、と言って上手くこの場を切り抜けられる気は少しもしなかった。


 後悔した。とりあえず流されるままにここに来たことを。


 舐めていた。異世界に住む人々のことを、心のどこかで。


 俺は、この世界に居場所が無いんだ。俺は、この世界で一人なんだ。

 

 俺は※二人ではあるね。一応。

 おお、作者。……あー、二人か。なるほど。……いや、お前は別に……まあまあ、確かに。二人か。

 ……いやーまじか。ここにきて唯一の味方作者か。いや待てよ、この状況もなにもかも全部お前が書いてんだろうが。今の俺の窮地はお前が作ってるだろ。なに味方づらしてんだ。諸悪の根源じゃねぇか。

※いや、実はもう結構勝手に動いてる君たち。プロットとかなんも決めてないし。

 なに天才みたいなこと言ってんだぶっとばすぞ!!!!

※落ち着こうか。まあ俺もいい作品にしようとしてるんだけどさ。主人公であるお前が頑張ってくれないと難しいわけよ。だからさ、お互いこの作品をいいものにしていくために協力していかなきゃ。だろ?

 ……………………………………………?もうよくわからん。なんでこんなややこしい作品書いてるんだよ。この掛け合いも括弧なくて読みづらいし。というか俺達が協力ってどうやるんだ?こんな「俺がいるだろ(キラーン)」みたいなので協力って言ってんだったらもう普通に出てこなくていいけど。このまま普通のファンタジー行こう。

※うるさいからもう進めるよ話。


「彼の言ってることは本当だよ」

 進めよか。目の前の女の子から向けられる僅かな敵意。怖かった。逃げたかった。受け入れて欲しかった。でも、どうすることもできない。

 そんな俺を擁護する声があった。

 その声の主は、黒ローブの中では背の高い人だった。男だ。渋みのある声だったが、年齢はわからない。ただ、ローブからつき出る曲がった鉤鼻が彼の存在を象徴していた。

 彼はもう一度念を押すように口を開いた。

「彼は迷宮都市を進む途中で、あの運び屋に抱え上げられてここにいる。それは確かだ」

 彼は見ていたんだ。俺が肩車をされるのを。なんだ、やべぇ、やべぇ泣きそう。うわそんなに俺心にきてたか。あー、あぶねぇあぶねぇ。

「ありがとうございます!」

 

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