第4話動き出す

 俺は唱えた。

「ステータスオープン!」

 

 俺はまたしても奇声をあげる人間となってしまった。テンプレを踏襲しろ。

 大事な確認を終えた俺は、さっきの奇行を見たり聞いたりした人々がしっかりと過ぎ去るまで待ってから、目の前を通った30代ぐらいのおばさんに声をかけた。本当にすいません、お姉さんでした。情景描写一発撮りでやってるんです。許してください。

「すいません、冒険者ギルドへの道をお聞きしたいんですけども」

 お姉さんは頬に手を当てて少し考える素振りをしてから、一つの方向を指差した。この通りを真っ直ぐ行けばあるのか。随分わかりやすいところに転移・・・なにこの悪寒。え、なにこの震え。お姉さんの顔を見れない。怖い。こわい。うごけない。うご

「ありがとうございますっ」

 動いた。何だ今の。何だ。蛇に睨まれた蛙みたいに体が硬直した。とりあえず逃げよう。あの人ヤバい。何かヤバい。絶対声かけちゃ駄目な人だ。見た目は本当にただの主婦なのに。なんだってんだ。

 俺は走った。その背中を押すのは、冒険者ギルドへのワクワクなんてものじゃなかった。

 どうやら俺が最初にいた場所は、この街の主要な大通りだったらしい。第1話の俺を0.7秒で異世界転移したと納得させたこの通りは、お昼の陽気の中で凄まじい賑わいを見せていた。途切れることのない人と喧騒。広い通りの真ん中を頻繁に馬車が通っていく。その馬車はでかい鶏のような生物いやごめん流石にあれはようなっていうか本当に『でかい鶏』だわ。そいつが引いていた。

 なんか色々おかしいぞこの異世界。


 

 暫く大通りを走っているが、この大通りは横道がかなりの距離を空けて配置されている。横道の広さは大通りの半分といったところで、馬車はすれ違えないだろう。やはり、馬車がすれ違うことを前提として街が作られていないといった感じだ。横道は基本的に十字路となっていて、横道は奥に真っ直ぐ続いている。

 それにしても、本当にッハァ、長い通りだ。

 ずっと走ってきたが、通りに並ぶ建物は基本何かの店のようだ。さっきまでは市場のように野菜や生ものを扱っている場所が多かったが、今走ってるところは目に見えて料理を扱う店が多くなって来ている。さっきまではたまに香るぐらいだった匂いが、今では勝手に腹が膨れるのではないかと思う程に濃密で濃厚になってきている。腹が減っているかと言われれば別に減ってはいないが、それでも気を抜けばお腹が鳴ってしまいそうになる。

 俺はここを走るのが少し憂鬱になってきていた。匂いにつられチラリと店を横目で見て、その度に思い出すのだ。

 いや、普通に俺文無しなんだよな。どうしよう。冒険者ギルドの登録にお金が必要なことって多いよな。テンプレートではどうやってそこをクリアしていただろうか。今のところ服を売るぐらいしか思いついていない。考えれば考えるほど不安は煽られていく。


 あのッフゥ、全然ッハァ、ないんですけどゥッ、冒険者ギルドっぽいの。


 流石に見逃した気がするので、また近くの人に聞いてみる。

「ああ、この通りの一番奥だよ」

 俺の来た道を指差して言った。

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