読者に配慮した異世界転移

@sssuo

第1話これって第1話だよな?

 ふと、目を開けた。


 あ、異世界転移だ。



 0.7秒。俺が目を開けてから異世界転移したと悟るまでの時間である。

 我ながら驚異的な早さだったが、正直これは目の前の景色があまりにわかり易すぎたからであって、俺がなろう系をすっごく嗜んでいるというわけではない。まあまあだ。

 俺は、石畳の大通りの端っこに立っていた。頭の上から降り注ぐ太陽の光が、日本では見慣れない街並みを照らす。通り沿いには多くの店が立ち並び、途切れることなく行き交う人々を待ち構えている。何にも例えられないこの街の香りとも言うべきものが、僕の鼻腔をくsいや待て。

 え、こういうのって俺がやんなきゃいけないの?こういうので情景描写とかするのって主人公なのか?いや普通に違うよな。何か普通にやらされそうになってたけど、俺は主人公としてただこの目で見て、感じて、それを作者が文章で頑張って伝えるっていう仕組みだよな。あぶねぇあぶねぇ、頭ん中でずっと見ている景色を文章としてまとめるとかやってたら折角の異世界転移の楽しさ半減だぞまったく。作者、俺も頑張ってこの世界を五感で味わうから存分に文章で表現してくれな。

 とりあえずまじで本当にテンプレって感じな異世界だな。ケモミミとか獣人がちゃんと目に付くとこ歩いてるし。うわしっかりエルフもいますわー、えかっわい!かっわい!え、もうこの時点でこの世界大好きになったんですけど。うわー最高すぎるわ。まじあざす。

 やっぱ情景描写は俺がやった方がいいか?よく考えたら文章よりも世界観とかストーリーに集中して貰った方が面白いことになるだろうし。あー、でもなぁ、それで作者と情景描写ブッキングとかしちゃうかもしれないか。てか、折角考えた世界観を俺の拙い文章で表現されるのも作者が可哀想ってもんか。そうだな、うん。 

 頭の中に『情景描写して』って響いてくるとか、空から『情景描写よろ』って書いた紙が降ってくるとかしたら考えるわ。

 まあそこらへんの線引はちゃんとしてほしいけどな~^^;。

 というか、まずは俺もやらなきゃいけないことがあるか。そう言えばまだ一言も喋ってないわ。やっぱ異世界来たら、茫然自失って感じで「ここ・・・どこ?」が定番か?そうだな。他に思いつかないし、あんまり尺使ってもしょうがないからな。あ、てかアニメ化も考えてちゃんとカメラ意識した立ち回りした方がいいのかな。えーとカメラ、カメラどこにあるんだろうなぁ。あそこか?いややっぱ斜め上からとかの方が臨場感でるよな。・・・と見せかけて後ろっ!あー、今絶対ここにカメラあるわ。もう感じるもん。この俺の目の前のザ・異世界の景色の中の俺の背中を映す感じだよな。大丈夫、わかってるぜ。俺はアニメ大好きだからな。

 よーしじゃあいってみっか。俺の異世界転生、初めての言葉!よーしえーと、「ここ・・・どこ?」だよな。よし、えーとじゃあ、本日お集まりいただき誠にありがとうございます。不肖、この私が作る異世界転移ファンタジーを、是非お楽しみください。では、いかせて頂きます。コホン・・・


「ここ・・・どk・・・ふぁ・・・ふぁぐじゅんっ!」


 ヒラ・・・ヒラ・・・。

 何この紙。ズビ。

『情景描写よろ』

 

 ・・・いや、どんなタイミング?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る