第2話

『※これを見つけた人へ

この文章は私の親友のあの子には見せないでください。


お父さん、お母さん、ごめんなさい。今まで愛してくれてありがとう。ダメな子供でごめんなさい。弱くてごめんなさい。大好きだよ。お兄ちゃん、お父さんとお母さんの事よろしくね。心配しなくても、きっと私より優秀なお兄ちゃんがいたらお父さんもお母さんも平気だよね。私がいじめられてた事、お父さんもお母さんもお兄ちゃんも知ってるよね。打ち明けるの本当は怖かったんだよ。勘違いなんじゃないか、そんなことばっかり気にしてるから最近成績が下がってるんだ。なんとなくそう言われるって分かってた。だけど私の親友のご両親はあの子の事を大切に思ってるって分かっちゃったからもしかして、って思ったんだ。期待しちゃった。だってお父さんもお母さんも「いじめで不登校」「いじめで自殺」ってニュースを見る度に心が弱いからそうなるんだ、友達なんていなくても勉強はできるじゃない、って言ってたもんね。私もそうだって思ってた。だから、あぁ、私いじめられてるんだって気付いた時怖かった。いじめそのものよりもお父さんとお母さんが嫌がる存在になってしまったって事に絶望したの。お父さんとお母さんに嫌われちゃうかもって。ただでさえ頭も良くてスポーツも出来て先生からも信頼されてみんなからも好かれてて、出来のいいお兄ちゃんと血が繋がってるって思えないくらい出来が悪い私は、お父さんとお母さんが嫌いないじめられっ子になったらもう見向きもされなくなるんだろうなって。


いじめられっ子になってしまった私はなんとか状況を改善しようと思ったけど、どうにもならなかった。親友のあの子がきっかけを作っちゃったのは何となく気付いていたけどあの子は中学の時いじめられてたみたいだったから。別にあの子がわざわざ言った訳じゃないんだ。たまたま、話の流れで。言った瞬間青ざめたあの子を見て聞いちゃダメだったんだ、言うつもり無かったんだって分かったから私は聞かなかったフリをした。いじめなんてお父さんやお母さんが言う通り大したことなくて、いじめられる側にも問題があるって思ってたから、この子はいじめられっ子だったんだって気付いた時、正直ちょっと軽蔑しちゃった。でもこんないい子がいじめられる理由なんて思い付かなくて。お父さんとお母さんが言う事は本当なのかなって少し疑うようになったんだ。だけど今までお父さんとお母さんが間違ったこと言うなんてなかったから、私は何が本当か分からなくなった。このいじめはあの子のせいかもって気付いた時、ものすごく腹が立ったけど、いじめられっ子だったあの子にこの苦しみを擦り付けるのは違うって思ったからみんなが飽きるまで耐えようって思った。だっていじめって辛いから。昔こんな経験をした彼女が二回も同じ目に会う必要は無いって思ったから。何より私はお父さんとお母さんの子供で優秀なお兄ちゃんの妹だから。耐えられるって思った。実際は無理だったんだけど。弱くてごめんなさい。あ、親友の名前は書きません。詮索もしないでください。あの子は悪くないんです。


学校ではエスカレートするいじめに耐えて、家で言ってみても気のせいだって言われて。傷を見せてもお前にも良くないところがあるからいじめられるんじゃないか、お兄ちゃんは優秀なのにあなたはどうしてって。私だって知りたいよ。なんでこんなに私だけ出来が悪いんだろうね。先生に言うつもりは無かった。きっと何も変わらないから。今まで見たニュースはそうだった。学校は把握していなかった、被害者とクラスメイトの関係は良好に見えた、こう言われるんでしょ。だけどもう耐えられないの。耐えられなかった弱い私が悪いんだ。だから誰も悪くないの。あの子も悪くない。クラスメイトもきっと何も気付いてない先生も悪くない。悪いのは私だけ。ごめんなさい。今までありがとうございました。さようなら。


最後に親友へ、この手紙を読み事は無いと思うけど。まずは私と友達になってくれてありがとう。あなたのおかげで学校生活すっごく楽しかったよ。最初に話した時のこと覚えてる?あの時私もすごく緊張してたんだよ。だけど勉強もスポーツもお兄ちゃんみたいに出来ない私は、唯一人に明るく接することだけは真似できるかもって思ったから話しかけたんだ。すぐに友達ができたよって言えば両親に褒めて…はもらえなくてもちょっとは認めてもらえるかなって。つまりあなたの事利用してたんだよ。びっくりした?ごめんね。だけどあの日、隣にいたのがあなたでよかった。あなたと友達として過ごした日々は本当に楽しかったから。嘘じゃないよ。これは本当に本当。今だって大好きだよ。だけどいじめの事、どうしても許せなかった。許さなきゃいけないのに。あなたは悪くないのに。私がいじめられっ子だったあなたのこと守ってあげなくちゃいけないのに。だから最後に仕返し。「友達でいてくれてありがとう。」って、飛び降りる直前聞こえるかな?最後まで迷ったんだよ。きっとこれは言うべきじゃない。呪いの言葉になっちゃうって。自分のせいで私がいじめられてる事に負い目を感じていたはずのあなたにはとんでもなく重い言葉だよね?いっそ恨み言を吐いてくれって思う?だけど私だって腹が立っているから。こんな気持ち初めてなんだ。自分じゃなくて誰かが悪いって思うこと。だから最後に仕返しさせて。ごめんね。だけどあなたの目を見て言う事はきっと出来ないから飛び降りる直前に言うよ。そもそも屋上に来てって言ってあなたが来てくれる確証はないけど。でも来てくれる気がするんだ。だって私たち友達だもん。もし、もしも聞こえちゃったらごめんなさい。本当は許してあげたいんだけど、いいよって言えないの。私って心が狭いみたい。あなたは悪くないのにね。本当にごめんなさい。だから最後は神様に任せようと思う。もし、聞こえちゃって、あなたが思い悩むことがあったらごめんね。だけど、どうか、私を忘れないでいて。』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

届かない手紙 仁城 琳 @2jyourin

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ