第28話

「ご飯にしましょうね」


お袋さんの合図で食事が始まったが、「久し振り」と言いながら立花一族が集まってくる。




「誠さん、ちゃんと食べてる?」

「はい」

「男の子なんだから沢山食べなさい」


「野菜も食べないと肌が荒れ……てないわね」

「そうですか?」

「もしかして毎朝スムージー飲んでるの?」



とても賑やか。

テレビだけが唯一の音源だった食事とは大違いだ。




「失礼いたします」


皿が7割ほど空いたところでが立花家のお仕着せを着た女性が入ってきた。


「お坊ちゃまがお目覚めになりました」


腕に抱えていた幼児がジタバタ暴れた。

「分かっております」と彼女は幼児を床に下ろす。


……ヨロヨロしてる。

歩き始めたばかりのようだ。


誰の子どもだろう。



「ばー」


幼児はヨロヨロとしながら近くにいた咲羅の叔母さんに笑いかけた。


「ばー」


その隣、咲羅の従姉の膝に手を乗せる。


「ばー」


その隣の彼女の妹にも。


「ばー」


お袋さんにも……。


「全員『ばー』だな」

「2歳児にとっては従姉妹あの二人もオバサンだからね」


「咲羅」

「咲ちゃん」

「ごめんごめん」


従姉妹たちに冷たく名前を呼ばれて咲羅は首を竦める。



気がつけばお袋さんが幼児を抱っこしてた。


……子ども、か。



隣を見る。

咲羅は向かいに座る従妹と子育てについて話し、笑っていた。


いつか咲羅も子どもを産むんだろうな。



俺が決めた離婚を、咲羅を守るためだったと全員が美談にしてくれている。

でも俺が咲羅を守り切れなかったから離婚したんだ。



離婚したから、俺は咲羅の元夫でしかなくて、ここで俺だけが他人。


……そろそろお暇しよう。


この空気に慣れてしまったら寂しくて、辛くなる。


「あの……」

「それにしても……」


咲羅のお袋さんと言葉が被ってしまった。

俺は黙り、お袋さんに譲る。


「こうして見ると本当に誠さんに瓜二つね」


……ん?


何が?


お袋さんはにこにこ笑っている。

その腕の中には幼児。


聞き間違え?

いや、聞き間違えだろう。



「えー、私に似てると思うけど」


咲羅?



「誠さん似よ」

「まあ、咲羅似でも恋人には困らないわよ」


……え?


ええ⁉

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