第17話
俺はあのドラマの主役になるまで稼げない役者だった。
名前を知っているのは演劇好きの一部。
人の縁で、あのドラマの主役をもらった。
主役になって、役者は上手く演じれるだけでは駄目だと実感した。
ドラマは視てもらわなければいけない。
そのためには主役はドラマの中以外でも注目されなければいけない。
バラエティ番組に出て、できるだけ映る。
番組公式SNSでプライベートを切り売りする。
あのドラマは視聴率が伸び悩んでいた。
プロデューサーは炎上覚悟の演出をすると言った。
俺は春沢安奈との濡れ場が増える程度のことしか想像していなかった。
橘斗真と春沢安奈の熱愛が捏造されたとき、プロデューサーは馬鹿じゃないかと本気で思った。
俺の公式情報は既婚者だから。
既婚者が妻以外の女と噂になれば不倫でしかない。
―――テレビだからw。
俺の抗議はその一言で笑ってすまされる。
橘斗真のイメージダウンになるのだからマネージャーの水田も抗議すべきなのに、あろうことかスタッフに協力して熱愛を捏造し始めた。
うんざりしたが、確かにスタッフの言う通り「テレビだからw」だった。
数日もすると次の熱愛騒動。
大衆は橘斗真と春沢安奈の熱愛への興味を失った。
意味深な写真も過激な文言も、誰も目に留めない。
逆に「橘斗真は既婚者でしょ?」とスポンサーの顔が渋くなって、プロデューサーたちは慌て始めた。
そしてSNS上に登場したのが『橘斗真の妻』だ。
『橘斗真の妻』は〇〇なんだって。
『橘斗真の妻』が〇〇しているのを見た。
名前を変えれば誰にでも当てはまりそうなコメントから始まり、やがて〇〇は悪意のある表現に変わっていく。
不特定多数の「見た」や「知っている」がどんどん『橘斗真の妻』を悪女にしていった。
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