第16話

「スマホが鳴ってるぞ」


俺の言葉に由貴がスマホを見る。

そして笑った。


「時間だ」


アラートだったのか?

缶を握り潰して車のほうに向かう由貴のあとに俺は続いた。



車は来た道を戻った。


「テレビ局に戻るのか?」

「まあ、な」


テレビ局に戻ったら振り出しだな。

タクシーを呼ばなきゃ。


楽しかったからいいけれど。



「じゃあな」

「ああ、また」


局の地下駐車場で由貴と別れ、駐車場内を移動する。

地下駐車場はいつも静かで少し不気味だ。


ん?


突然車がたくさん入ってくる。

そして車から出てきた人がエレベータに殺到した。


あっという間にエレベータのところに列ができた。


なにかあったらしい。

エレベータの位置を報せる灯りをぎらついた目で見ている。


珍しいことではない。

テレビ局は情報の発信基地。


これは日常にあること。



目立つのも面倒なので使う人の少ない非常階段を選ぶ。

歩きながらスマホを開いた。


歩きスマホは危険だと承知しつつも、仄かな酔いと友人に久しぶりに会えた高揚感がアルバムを見たい気持ちを抑えられなかった。


一番最初に出てくる写真の日付は3年前。


ベッドで横たわる咲羅はやつれ、頬がこけている。

いまにもシーツの白に溶けてしまいそうなくらい儚げだった。


次の写真。

その次の写真。


アルバムの写真の中には咲羅ばかりいる。


―――今日の一番を記録に残したいの。


そう言って咲羅は毎日「その日の一番」を撮っていた。

とても楽しそうだったから俺も真似するようになった。


―――なんで毎日私を撮るの?


嬉しそうな顔で膨れていた咲羅。

俺は毎日咲羅を撮っていた。


咲羅と一緒ではない日は咲羅に見せたいものを撮った。


美味しい店の料理。

道端の猫。


そして名前は知らないけれど可愛い花。


―――ほかに撮りたいものはないの?


呆れる咲羅に「ない」と即答した。

馬鹿だと咲羅には笑われたが、優しいキスが沢山降ってきた。




咲羅と離婚したあとは写真だけが俺を支えてくれた。


笑っている咲羅。

怒っている咲羅。

拗ねている咲羅。


どれも大切な俺の咲羅。


―――俺の唯一の女性ひと



「咲羅、ごめん……ごめんな、俺が……もっと俺が……」

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