@某俳優の控室

第7話

「少しは落ち着いたらどうです?」



俺の声に、このテレビ局に来てからずっと落ち着かない『橘斗真』のマネージャー水田がビクッと震えた。


そんな水田に俺は冷たい目を向ける。



三カ月ほど前からこのテレビ局には女の幽霊が出る。

名乗る幽霊と言うのも珍しいが、その幽霊は『橘斗真の妻』だと名乗る。



『橘斗真の妻』は三年前に自殺した。


一般人であるはずの『橘斗真の妻』の死を知っている人が多いのは、SNS上で「『橘斗真の妻』が行方不明」とか「『橘斗真の妻』が自殺したらしい」と騒がれたからだ。



そうは言っても情報過多の時代。

誰もが三年前のことを覚えていたわけではない。



今の騒ぎは幽霊が『橘斗真の妻』と名乗ったから、誰かが『橘斗真の妻』を調べた結果。


稀代の悪女と言われた『橘斗真の妻』は話題になる。


乱暴者の女王様で寝た男は星の数ほど。

センセーショナルでしかない話題を連ねる『橘斗真の妻』に注目が集まる。


SNS上は『橘斗真の妻』と『橘斗真の妻の幽霊』で盛り上がっている。



『橘斗真の妻の幽霊』はこのテレビ局にしか現れない。


幽霊はいつの間にか目の前にいる。

誰もが彼女に首を傾げて「誰だ?」と尋ね、幽霊が名乗ると一様に驚く。


幽霊は美しく微笑み、そして桜の絵が描かれた封筒を渡して去っていく。


何人かが幽霊を捕まえようとした。

しかし捕まえられた者はいない。


『橘斗真の妻の幽霊』は何のために現れるのか。


SNS上は幽霊の目的で盛り上がる。


ヒントはある。

封筒を受け取った者たちだ。


幽霊が現れるたび彼らの相関図は広く詳細になる。

やがて何の相関図か徐々に明確になっていく。

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