社会人五年目の僕

 様々な問題を抱えたまま入社五年目を迎えた。


 いつの間にか死ぬ予定だった20歳は過ぎていた。

 最近は、死ぬことも考える余裕が無いくらいに忙しい毎日を過ごしていた。

 パートさんとは関係も元に戻り、今では休みの日は不安と言われるくらいまで頼ってもらえている。


 暴言と怒号が飛び交う事務所にはなかなか慣れず、僕が起こられているわけでもないのに悪口や文句、怒号が聞こえるたびに精神がすり減っていた

 この年の春、現場で僕の事を気にかけて「相談して来いよ」と言ってくれた社員さんが足を骨折した。

 現場で働けないからと僕の課で研修することになった。

 現場で話したこともない僕の事を気にかけてくれた感謝から今度は僕が約に立ちたいと思い、精一杯介護をした。

 その甲斐あって、快気祝いに呼ばれるくらいまでは仲良くなっていた。

 この日、快気祝いに参加していた社員の一人に一目惚れした。

 仲良くなりたくてアプローチしてみた。公園を散歩している時に見つけた片思いの社員に名前の似ている木の写真をSNSに送ってみたが、何日経っても既読がつかず恥ずかしくなったので送信を取り消した。

 きっと、仕事とプライベートはハッキリ分けている性格なのだろう。と納得することにした。


 そこから徐々に仲良くなり、向こうからアプローチしてくるようになった。

 周りは「冗談だから本気にするなよ」と言っていたが、僕も片思いだったのでついつい本気にしてしまっていた。

 後に、恋人がいると知って僕の片思いは玉砕した。

 恋人が居ると知ってからは相手からのアプローチは本気にしないようにして受け流す様になった。

 それでももしかしたらを期待していた僕はご飯に行ったりしていた。

 恋人さんには申し訳ないが、今、この時間くらいは幸せで居たかったので浮気という形になってしまっても自分の気持ちを優先させてしまっていた。


 この年の夏、僕は姉に追い出される形で独り暮らしを始めた。

 独りで暮らしていくことに対して僕はお金の面で不安だったが、自分だけの時間、誰も僕に暴言を吐かない、暴力を振るわない空間に安心感を得て不安も一瞬にして飛んだ。


 この年の冬、僕の初恋は実った。

 初めて真剣に人を好きになった。必要とされているから、安心したい為とか関係なしに人に恋をした。

 今まで感じたことの無い衝撃が走った。

 心がドキドキした。仲良くなりたいと思って、もっとこの人と一緒に居たい、この人となら嫌だと思っていた、気持ち悪いと思っていたえっちぃ事もいっぱいしたい、もっと触って欲しいと思えた。

 それでも過去のことがフラッシュバックして何度も何度も迷惑をかけた。

 相手の一番じゃないと気が済まない依存体質のせいで、会社内で他の人と楽しそうに話しているのを見て、自分以外の人を頼っているのを見て嫉妬して迷惑をかけた。寂しい思いをさせた。わがままで不機嫌にさせた。怒らせた。それでも僕を好きでいてくれた。過去を打ち明けても気にしないでいてくれた。引かないでいてくれた。守るって言ってくれた。

 彼は僕に欲しい言葉をくれる。いつだって心配してくれる。どんな僕でも愛してくれる。

 酷い目にあいたくなくて、強がって、自分の心を偽って、そういう目で見られることを減らしたくて女子力を極限まで落として男の様な振る舞いをしていた僕に、もうそんなことしなくていいんだっていう安心をくれた。


私を女に戻してくれてありがとう。

私を見つけてくれてありがとう。

 私を好きになってくれてありがとう。


 まだまだ時間はかかるかもしれないけど、少しずつ過去を乗り越えて、悪い思い出を君で上書きして偽りだらけだった僕は、偽りのない素の私になれるように頑張るね。

 だから、最後まで見届けてください。

 私が、君の隣で胸を張って私と言えるように。

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