第5話
ゼファールと名乗る背高のっぽの兵士はサタナチアが統括する隊内部の内情を話し始めた。
実はサタナチアの配下の兵士は我儘な上官の愚行についていけなくなりつつある。上辺だけの命令は聞いている状態ではあるが、このままでは統制がとれなくなるだろう。
オレみたいなオッサンは良いとして、まだ未来のある少年を打首にするのは誰もしたくないという。オレは良いのか。
そこでこの村の先程の騒動を利用してその悪行を国に伝え、いずれ上層部にどうにかしてもらおうという算段だという。
「お前のその軽そうな口ぶりが信用ならねぇんだよな……」
「まぁ、ヒドイ!こんなに誠実そうな顔してるのに!」
ゼファールは大げさに肩をすぼめてみせたが、笑いを隠そうともしていなかった。
――でも、オレは「無能なガルストン」って呼ばれてるらしいからなぁ。
オレがそう呟きかけた瞬間、ゼファールが先手を打つように言葉を継ぐ。
「そう、これが噂に聞く“ガルストン”です!……とまぁ、こんな感じに言えば気持ち良いですか?」
オレは思わず目を細めた。
「なぁ……オレってそんな有名なのか?」
ゼファールの表情が、ここぞと言わんばかりに輝いた。
「有名も何も――」
ゼファールは少し身を乗り出し、やたら芝居がかった調子で続ける。
「貴方は魔術学院始まって以来の“魔力貯蔵保持者”!けれど、女神が与えた魔法スキルがよりによって“創造変換”。そのため、宝の持ち腐れなんて言われてましたねぇ」
「……創造変換?」
「ええ、何でも“ものを生み出す”もしくは“物質を変換”させる系統の魔法スキルらしいじゃないですか。スキル自体は珍しいんですけどねぇ」
ゼファールは口の端を釣り上げて笑みを浮かべる。
「あの学院でなにを学んでも結局、魔力制御もうまく行かないことが多いとかで、国が管理すら諦めた。そんな噂が、魔術界隈では飛び交っているんですよ」
オレは眉間に皺を寄せた。
自分の知らないところで自分がそんな風に言われているとは――オレはこの体の前の持ち主を憐れに思った。
「……なぁ。それみんな知ってるのか?誰から聞いた?」
「さぁね。でも、魔術学院出身なら知ってる人も多いでしょうね。実際、貴方がその“ガルストン”かどうかは、ボクも半信半疑だったんですけど……」
ゼファールはオレをじっと見つめ、その視線の中にわずかな好奇心と侮蔑が交じる。
「先ほどの“蛇”の件で、確信しましたよ。やっぱり貴方は、あの噂のままのお方だ――ってね」
その言葉は、どこか挑発的で、そして妙に自信に満ちていた。
「さて、どうしますか?ボクもあまり長居はできないのでね」
ゼファールは両手を広げた。会話の主導権は完全に握られていた。
「お互い利害が一致するのであれば協力し合いましょうではありませんか」
「魔術師様……」
村長は救いを乞うような眼差しを向けた。オレは居てもたってもいられなくなった。なんでこんなことになったのか。どこで間違えたのか。目まぐるしく脳みそをフル回転させ、あらゆる可能性を考えても……この村を、トリントンを、そして自分の首を守るには。
「……いいだろう。お前を、ゼファール。あんたを信用するぞ」
オレは利き腕を差し出した。ゼファールは少し驚いたような顔をしたが、やがてにっこりと笑うと固い握手を交わした。
「そうこなくっちゃ♪」
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