第11話 脱出作戦と反省
僕は子供達に指示を出して脱出の準備を整える。
脱出については、宗馬達と明里達の二つのグループに分かれて行うつもりだ。
宗馬達のグループには、比較的動ける5歳以上の子供達を集めて、出来るだけ早くここからの脱出を目指す。
明里と僕が担当するグループは、4歳以外の素早く動くことができない子供達を集めて、確実に脱出を目指すことを目的としている。
そのような目的の関係上、先頭は宗馬達のグループが務めることになる。
(道は圭介がいるから迷うことはないはずだが、問題はこの拠点の外を出た後だな)
道中の敵は僕が全て片付けた上に、ファンネルを一部待機させているため、接敵することはない。
しかしながら、外に出た後は襲われる可能性がある。
敵拠点は、悪の組織よろしく地下に根を張っているタイプだった。
そのため、外に出ることができれば敵対組織から脅威はかなり低くなるが、問題は入り口の場所である。
簡単には見つかってはいけないため、魔物などの危険エリアの中にある。
流石に入り口付近の魔物を殺し回ったら気付かれる可能性があるため、危険の排除ができなかった。
(外に出たら、魔法で合図を送り、それを確認した守り手が強襲するプランだけど、不安は残るな)
陽動のために少し離れていることもあって、到着までに誤差が生じる。その誤差で何か起きなければいいが、そこは宗馬達を信じるしかない。
(まあ、シスターのエグい魔法のスクロールを色々渡しているし問題はないか)
シスター達の陽動もあったが、特にスクロールに頼ることなく敵は倒したので、それなりの数渡すことができている。
守り手が到着するまでの時間稼ぎであれば宗馬達だけでも十分可能なはずだ。
因みに明里達の方が危なそうに見えるが、問題はない。
何故なら、僕が裏からカバーできるから。
幼い子供達が集まっていることもあって簡単に騙せるため、集団行動だが、かなり自由に動ける。
そのため、大抵の問題は裏で片付けることができる。
(無事に子供達を救出して、拠点に総攻撃を仕掛ける。
生贄がいないからヤバいやつは召喚できず、敗北は確定。僕の暴れた証拠は闇に葬られ、戦争も終わる。
表舞台に出ることなく全てが片付く完璧な作戦だな)
そう完璧な作戦だった筈なのだが、少しだけ後悔していることがあった。
それは、明里が後少しで死ぬところだったのと、道中の敵を瞬殺するのではなく、なぶり殺しておくべきだった。
最強たる者、もう少し余裕があってもいい気がするし、明里達にあそこまでのことをした奴らを瞬殺したのは、ちょっと惜しいことをしたと思うところもある。
(うーん、私情を挟み過ぎかな?悩ましいところだ)
最強として、あまり感情的になるのはよろしくない。悠然と確固たる姿が大切なのだ。
しかしながら、服はボロボロで露出している肌から見えるものは傷やあざのみ、整っていた顔は目を背けたくなるほど腫れていた明里の姿を見た時、この世界に転生して初めて最強になりたい以外の激情が込み上げてきた。
最強として鍛え抜かれた精神力が無ければ、反射的にシスター顔負けの一撃を持って、この戦争の黒幕ごと拠点を消し飛ばしていた。
(反省点だな)
今回はギリギリセーフだったが、やはり最強として間に合わないは無くさなければならない。
(ああ言った非道な行為の場合についても考えとかないとな)
一撃で瞬殺するのも悪くないが、やはり味気ないところがある。
ちょっとぐらい煽ってボコボコにした方がいい時もあるだろう。
(だけどやり過ぎには注意だな、最強じゃない。サクッとやるからいいんだよね。二、三発殴ってKOぐらいの感覚でやるか)
最強は唯我独尊だし、固執するのは小物に見えて最強じゃない。
(まあ、今回はそんなことしてたら間に合わなかったかもだし、結局はケースバイケース。適当にやろ)
明里にも言ったが、人生はシンプルかつ適当にやったほうがいい。
僕もそうだが、複雑なものに適切な答えを出すのは疲れるし、大変。
その上、納得いく答えが出るかというと、ほとんど出ない。
複数のことを同時に追い求めることは、欲張り過ぎなのだ。
僕も含めて人間は複数のことを同時に処理できるほど器用ではないのだから、シンプルにどうしても譲れないものを一つに決めて、適当に生きたほうがいい。
実際に最強になる以外のことを捨てた僕は、とても生きやすいし、理想の自分に前進できてる。
それも当然で、生きている理由は最強になるためなので、それに全てを費やせるし、何かを判断する時も、それは最強であるか。
イエスがノーで考えればいい。
迷う事はほとんどない。
迷わないは強さに直結する。
みんなも是非やってみるといい。世界が広く感じる筈だ。
「奏多、準備ができたよ」
一人反省会をしていると明里が声を掛ける。
「分かった」
僕はみんなの前に立つ。
一応、あのような酷い目にあったので元気付けの言葉はあったほうがいいだろう。
ちょうど伝言も預かっていたので一石二鳥だ。
「みんな、これから僕たちは脱出する。
辛くて怖い気持ちであることはよく分かってるし、不安な気持ちもよくわかる。
だけど、みんなには戦って欲しい。
もちろん、殴って戦って欲しいわけじゃない。辛くて怖い気持ちと戦って欲しい。
諦めないで欲しい、自分たちが助かることを
不安で顔を下にしないで前を向いて欲しい
希望があると信じて欲しい。
そうして、この薄暗い洞窟を抜け出した時、助けに来たマザー達に抱きついて欲しい!
助けてくれてありがとう、大好きファザーマザーと満面な笑顔で言うんだ!!
そして、勝ち取るんだ!
温かくて美味しいご飯をみんなで笑って食べるあの瞬間を!」
奏多の声はみんなに透き通った。
そして、誰もが年に一度行われる美味しいご飯が食べられる楽しかったパーティを思い出す。
「みんな、想像はできたか!
それは決して夢物語にはならない!
マザー達からの伝言だ!
みんなで必ず、よく頑張ったパーティをする。
だから、期待して前に進め!!
マザー達は約束を破らない!!」
「「「おぉーーー!!!」」」
子供達のやる気が爆発する。
みんな思い出し、欲してしまったから、楽しかったパーティを。
そうして脱出作戦は始まるのだった。
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