夏の話、二回目



「暇ですねえ、先輩」

「暇だな」

「…………」

「……なんだよ」


 無言でこっちを見るな。


「……先輩」

「だから、なんだよ」

「もう七月ですけど、いつ頃まで、ここに?」

「そんなに辞めてほしいのか?」

「曲解!? またも曲解されてます!?」

「誰でもそう思うだろ、そんなに催促されたら」

「催促なんてしてませんよ! ただ、もし退職するなら……」

「退職するなら?」

「……いえ、あの……。そう、退職祝いでもお渡ししようかと!」

「大袈裟だな」

「大切な先輩ですから」

「そうか」

「そうですよ」


 暫しの間、二人を沈黙が支配した。

 珍しいことだった。


「ところで、大谷」

「なんですか、先輩」

「バイト辞めるの、やめることにした」

「はい!? 突然!? 突然の報告!! なんでですか!?」

「成績が良いからだ」

「自慢!?」

「正直、予備校に通う必要がないくらいには、模試でも良い点が取れている」

「じゃあ、このバイトは……」

「だから、辞めない。残念だったな」

「残念なんて一言も言ってないですよ!!」

「あと大谷」

「なんですか?」

「今日から『玉緒さん』って呼ぶわ」

「えっ、……は、……へ? なんで、ですか……?」

「お前が名前呼びしろって言ったんだろ」


 俺の言葉に対し、いつものように、彼女はこう言うのだ。


「そこは、『もっと仲良くなりたいから』って言うところですよ! そうすれば、私の好感度が10上がります!」





『「先輩! 私の好感度を上げるチャンスです!」』 了


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