第6話
「どうぞ」
女は黒いワンピースに着替えていたけれど、昨夜のシンプルなものと違って、裾がアシンメトリーになっている。
脱がせにくそうな服だな……と思いながら部屋へ入ると、ソファを勧められた。
女はテーブルを挟んで真正面に座ると、笑みを見せた。
「私のお願い聞いてくれる気になった?」
車で待たされてる間に覚悟は決めた。
これまでだって、素性のわからない女の、その場限りの相手になったことは何度もある。
愛がどうとか言えるような人生はもうとっくの昔にあきらめた。
「期間は?」
「3月8日まで」
「わかった」
シャツのボタンをはずし始めた俺を見て、女は目を見開いた。
「何やってるの?」
「何って、今日から俺はあんたのヒモってことだろ?」
「ありえない。話はちゃんと最後まで聞いて」
女は席を立つと、写真を持って戻り、それをテーブルの上に置いた。
「結月琴音。この子を落として」
「……落とす?」
「柊ニは顔だけはいいもの。それに今まで女の子といっぱい遊んできて慣れてるでしょ? そんな感じで、彼女を柊ニに夢中にさせて欲しいの。期日までに彼女から婚約破棄を申し出てくれたら、任務完了ってとこ」
「この子、婚約してんの? だったらちょっと――」
「成功したら、報酬は500万円。それから今日あなたが私に作った借金もチャラ」
「……それでも……相手がいるのにとかは……趣味じゃないんで。断る」
「そう……じゃあ、仕方ないかぁ。あなたのご両親とそのお勤め先にもあのことバラすしかないわね。ついでにご近所にもバラしちゃおっかな」
「あのことって……」
「何のことかわかってるでしょ?」
嘘だろ?
何でこの女……
はったりだ。
「あなたのご両親、お二方とも地元では教師をされてるわよね。お父様は教頭だったかしら。都会と違って田舎だと、息子のしでかしたことでもどれだけ肩身の狭い思いをするか――」
「黙れ!」
「秘密を守れて、借金もチャラ。悪い話じゃないでしょ?」
「……どうしてこの女を?」
「理由は言う必要ないと思うけど?」
「あと2ヶ月もないのに……」
「仕方ないじゃない。卒業式が終わったら婚約発表されてしまうから」
「あんた、何者? この写真の女とどういう関係?」
女はテーブルの隅に置いていた名刺入れから1枚の名刺を取り出し、俺に渡した。
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