「何であげたの?」

「あったから」

「これは、子供たちの…」

 メイペスは混乱している。

 

「子供たちはもう食べてる。でも、余ってる。なら、食べたいやつが食べればいい」

 グラスコ・グレコが口を挟む。

「そもそも、こんな公衆の面前でやってるんだから、ダメっていうのもおかしくないか?」

「……でも、決まりが…」

 依然、不満が表情から見て取れる。

 

「あー。もう。メイペス、こっち向け」

 と、グラスコ・グレコに言われ、顔を上げると、口の中に甘いものを入れられた。

「…なっ!」

 

「生キャラメルって言うんだ。余ったものでレイノシュが作ってくれた。ポップコーンでもない。口にしたからには、メイペスも同罪だな」

 いつもの若気た顔とは、どこか違うグラスコ・グレコの表情。

 

 メイペスは、ほたほたと涙を溢し始めた。

「…………私の知ってるキャラメルと違う。とろとろ……美味しい…」

 ほんの少し真面目だったグラスコ・グレコの顔が柔らかく笑う。

「だろ?美味しいは分け合うもんだ。今日足らなくてもいいじゃないか。明日、また作ればいい。レイノシュが」

「三千人分なんて無理ですよ。力は有り余ってるんですから、あなたがやって下さい」

「おう。飴造りなんて、力仕事だもんな」

 と、がははと声を上げて笑っている。


「ねぇ?エデノの外は争いばかりじゃないの?人を傷つけて、こんな美味しいものがあるの?」

 乱暴に涙を拭いながら、メイペスが言う。

「ねえ…?外は怖いところじゃないの?」


「怖いかと言われたら…」

「怖いですね。つい何日か前まで、この人がスプラッタだったのは、君も知ってるでしょう?」

 メイペスは、レイ・グレコがグラスコ・グレコを背負ってきた時を思い出した。

 

「子供を脅すな、レイノシュ」

「そうですよ、夕飯前に片付けをしてしまいましょう」

「あ、アンスタウト…私…子供なの?」

 アンスタウトは、真顔になって

 でも、

「もっと、色々知ってもいいと思いますよ」

 そう、ふわっと笑う、アンスタウト。


「ん、分かった。子供たちだって、お礼にってお芋を分けてたんだもんね、じゃあ、私は……私は……」

「何をしてくれるんだ?」

 グラスコ・グレコが、期待に満ちた目でメイペスの目を覗き込んでいる。


「あ!そうだ!子作りを教えて上げる!グラスコ・グレコ!あなた!知らないのでしょう!」


 グラスコ・グレコのぽかんとした顔を見て、メイペスは、良い提案が出来たと満足していたら、途端、弾けるようにアンスタウトとレイ・グレコが、大声で笑い出して……

 私、変なこと言ってないよね?とメイペスは思った。

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カヲルノヒズミル譚 砂生 @narlel-00

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