魔女のツガイ
ユリアス
第1話 反逆の炎
今から300年前。魔界の住人である魔族がこの地上に現れた。
魔族は上位存在たる自分達こそこの世界を統べる存在にふさわしいと、人類への攻撃を開始。
圧倒的に数的有利であったはずの人類だが、魔族の戦闘力の高さゆえに手も足も出ずにたった3年でこの世界は魔族に支配された。
そして魔族は自分達よりも数の多い人類の管理のために、妖魔と呼ばれる人型の異形を生み出し、地上の支配をより盤石なものにした。
しかし、人間を下に見る魔族による支配はとても良いものとは言えなかった。
あるところでは奴隷のように働かされ、あるところでは実験用のモルモットのように扱われ、またあるところでは魔族の戯れで命を奪われた。
当然、そんな魔族の横暴な支配に不満を持った人々による反乱は幾度となく起こったが、全て魔族の圧倒的な力の前に、為す術もなく散っていった。
そして、300年もの月日が流れたが、未だ人々の反逆の炎は弱まりつつも、潰えてはいなかった。
モール地方、ジマリハ街周辺。夜の街道を巡回していた4人組がいた。
その影はと人に似ているが頭だけが違った。
犬の頭に兎の頭、鳥の頭に馬の頭。それぞれ違う動物の頭を持っていた。
加えて、それぞれの動物の特徴を捉えたような手や毛並みをしていた。
「ふわぁ~あ」
犬の頭をした妖魔がけだるそうに欠伸を漏らす。
「夜の巡回なんて、最近のスタルトス様は気合入ってるよなぁ」
「例の
犬の妖魔の言葉に鳥の妖魔が答える。
「ああ、例の次期
「そうそう、レジスタンスを狩って功績を上げればって話」
「そういえばこの前も、何人か連れてレジスタンスの隠れ家に攻め込んだって聞いたな。どうせならそっちの方が面白そうだなぁ」
「たしかに、人間どもいたぶる方がよっぽど楽しそうだ」
「だよなぁ、お前らもそう思うだろ?」
そう言って後ろを歩いていた二人の妖魔の方を見る。
しかし、そこに二人の姿は無かった。
「ありゃ?どこ行ったんだあいつら」
「がはっ」
突然の出来事に困惑する間もなく、鳥の妖魔が血を吐き倒れる。
「は?」
「安心しろ、お前もすぐに送ってやる」
声のした方を見ると同時に、喉に激しい痛みが走る。
「んな!?かはっ!」
反射的に喉を抑えた手が血で染め上がる。いつの間にか隣にいたのは、白いフードを被った人間の少女だった。
「に、ん……げん……!?」
犬の妖魔は自分の見た光景に目を疑った。
妖魔4人がまったく気配に気づかずに全員仕留められたこと。
彼女の剣閃がまったく見えなかったこと。
そして、人間という自分よりも格下の生物に致命傷を負わされたこと。
それら全てが信じられなかった。
しかし、彼女の剣から滴る血がそれを事実だと証明している。
それでもプライドの高い妖魔は、その事実が受け入れられぬまま、その場に倒れた。
「お掃除完了っと」
少女は剣に付いた血を振り払い、鞘に収めるとその場を後にした。
そして、その一部始終を遠くから眺めている者がいた。
身長は低め。切れ長の目に金色の瞳。髪は銀色で長く、後ろで纏められている。
一見、人間にしか見えない外見だが、1つだけ大きく違う点があった。
それは、耳の後ろから横に伸びている大きな角が生えていることだ。
妖魔よりも人の見た目に近いが、角や獣の耳などの人とは違う点も見られる。それが、魔族だ。
魔族の男は品定めをするように遠くから少女を眺める。
「ふむ、たしかに人間離れした身体能力と魔力量だ」
そして、少し考えるように目を閉じる。
「それにしても、王は何故あのような者を欲するのでしょう」
ほんの数時間前のこと。昼過ぎだったろうか、彼はいつものように、部下からあげられた報告書に目を通していた。
そんな彼の元に、魔族の王より魔界への召集が命じられ、彼に王直々の命令が下された。
それが、彼女を捕らえてくることだ。最悪、死体でもいいとの事。
たしかに彼女の魔力量と身のこなしは、普通ではない。
だが、人の域を超えているとはいえ、妖魔相手に通用しようとも、魔族にはまだ及ばない。
良くて上級妖魔と同レベルだろう。
「まったく……考えれば考える程、お偉いさんの考えていることはわかりませんねぇ」
これ以上考えるだけ無駄だと悟った彼は思考を切り替える。
今後の事、彼女を捕らえることに関してだ。
今すぐ捕らえてもよかったのだが、彼女の力は予想以上だった。
決して、不都合というわけではない。むしろ、都合がいいとも言える。
「アイツをぶつけましょう。運が良ければそのまま始末できるかもしれません」
現状、彼女がアイツに勝てる可能性は低い。
しかし、何か少しでもきっかけがあれば勝機があるかもしれない。
(自ら手を下すのはリスクが高い。ならばダメもとで利用してみましょう)
立ち去る彼女の姿を見ながら、不敵な笑みを浮かべる。
「期待していますよ」
そう言って彼もその場を後にした。
夜空に浮かぶ満月だけがそのすべてを見ていた。
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