第2話 ダウナー系のギャル

 入学式を無事に終えた俺たちは、先生の誘導で教室に移動した。


 ちなみに、俺のクラスの担任は素晴らしいことに美人だった。


 それから、クラスメイトの中にも目を惹かれてしまう可愛い子が沢山いた。


 お調子者の男子達が「うちのクラスの顔面偏差値高すぎだろ!?」なんて騒いでいる。気が合うじゃないか……俺も同じことを考えていた。そのため、愛する幼馴染のように鬱陶しいハエを見る目で男子達を睨みつけることは出来なかった。


 「ちょっと、そんな目で睨むのやめなよ」

 「別に……睨んでない。目つきが悪いのは生まれつき」

 「幼馴染なんだから、そんな言い訳が私に通用するわけないじゃん!睨んでいる時とそうじゃない時の見分けぐらいつくからね!?」

 「……それが本当なら、私が楓を睨んでいる時に気が付かずに間抜け面してるのはどうして?」

 「いやいや!間抜けな顔なんてしてないし!!確かに表情には出てないかもしれないけど、本気で睨んでるなぁ〜って時は反省してるよ!?」


 俺が大声でそう言い返した時だった、背後から懐かしい声が聞こえてくる。


 「誰が騒いでるのかと思ったら、楓かよ」


 この声は……もしかして、雛じゃないか?


 声の主が教室の入り口から近づいてくる。


 やっぱり、雛じゃん!


 おぉ!これは嬉しい再会だな。


 まさか、『姫ヶ丘ひめがおか ひな』とクラスが一緒だったとは。何を隠そう彼女とは中学時代に同じ部活に所属していたのだ。


 つまり、仲良しということだ!


 「楓、卒業式以来じゃん」

 「雛!会いたかった!」


 雛が綺麗な金髪を揺らしながら近づいてくる。相変わらず美しい。しかも、陽キャっぽい見た目とは裏腹に彼女は名家のお嬢様だったりする。


 お嬢様というと、金髪縦ロールを想像する人が多いだろうと思うが、彼女の髪型は綺麗に切り揃えられたショートヘアである。


 そんな彼女、中学校に入学したての頃はツインテールだったのだが……ある日、互いの似合いそうな髪型について話していた際に「雛はショートヘアが似合いそうだね!」と言ったら、翌日にはツインテールをバッサリ切って、ショートヘアになっていたのだ。


 それと、これは余談なのだが……。


 その当時、絵麻に「私、どうしても絵麻がツインテールにしてるところを見たい!」とお願いしたら「雛と髪型がお揃いになるから……嫌だ」と断られてしまったことがある。


 だが、この話は雛に対するショートヘア似合いそう発言とは、一切関係がないんだから!勘違いしないでよね!?


 ……とにかく、俺が伝えたいことは一つだけ。雛は陽キャで素直で可愛いということだ。


 うん、可愛い。とりあえず、褒めよう。


 「相変わらず、綺麗な髪だね!」

 「楓、いつも褒めてくれるね。すごく嬉しい。ありがとう」

 「いやいや、褒めたくもなるよ!?そんなにサラサラで綺麗な金髪を持ってる人なんて、雛以外にいないし!」


 俺がそう言って褒めると、雛が腕を組みながらジト目で聞いてくる。


 「なんか適当じゃね?ホントに思ってる?誰にでも言ってるんじゃない?」


 雛のその言葉に、俺は机を叩いて立ち上がりながら豪語する。


 「そんな事ないって!マジで雛の髪こそが、最強で無敵の金髪だから!!」


 俺の熱意が伝わったのか、雛が気恥ずかしそうに耳元の毛先を指で弄る。


 「……そんなに褒められちゃうと、いくら自信家な私でも流石に照れるな」

 「よっ!髪色金閣寺ッ!!」

 「それで褒めてるつもりなん?嬉しいけどさ。もっとこう……他にも。まぁ、別にいいか。褒め言葉なら何でもいいや……」

 「雛の金髪と比べたら、金閣寺ですら霞んじゃうけどね!」

 「相変わらず調子のいいやつだなぁ。そこが楓の良いところなんだけど。……そういえば、酒野谷さけのや先輩もこの高校らしいよ!」

 「うえ"ッ?!そうなんだ?!……はぁ、あの先輩、苦手なんだよなぁ。別に嫌いじゃないんだけど、二人きりで話すとなると、得意じゃないというか……ホント、何で苦手意識持っちゃうんだろう?先輩、良い人なんだけどなぁ……」


 俺と雛が、中学時代の先輩に関する思い出話に花を咲かせていると、隣の席に座る可憐な花が面白くなさそうに雛を睨んでいた。


 綺麗な花には毒があるなんて言葉があったような気がするが……絵麻は他人に対して、厳しくて冷たいと勘違いされることが多いのだが、実は引っ込み思案なだけ────


 「姫ヶ丘さん。邪魔……」


 ……。絵麻は引っ込み思案なだけだと思ってたけど勘違いだった!他人に厳しくて冷たかった!


 そんな絵麻の、北極のように冷たく厳しい言葉に対して、雛はというと……。


 「……は?」


 うん。反応として間違いではない。間違いではないけれど威圧しちゃってるから!絵麻が、余計に考えを変換して言葉にするのに苦労しちゃうから!さっき北極のように冷たいやつだとか言ったくせにと思うかもしれないけど!幼馴染として言わせて欲しい!


 本当はあの子、引っ込み思案なだけでいい子なんです!!


 「いや……あの。邪魔なので……何処かに行ってほしいです」


 ……。もしかすると、絵麻は悪い子なのかもしれない。北極絵麻ちゃんなのだろうか?


 「…………は?」


 このままでは喧嘩になってしまう!それは面倒だから嫌だ!


 「同じクラスになれたんだから、仲良くしよ!ほら、絵麻!ごめんなさいしなさい!」

 「わたし……そんなつもりじゃなくて、あの……えっと」

 「絵麻?ほら、ごめんなさいは?」

 「……ゴメンナサイ」


 おぉ!偉いぞ絵麻!そうなのだ、いい子な絵麻ちゃんは、しっかり謝れる子なのだ。


 「よくできました!」


 きちんと謝れる良い子にはご褒美をあげなければいけない。しょぼくれている絵麻の頭を優しく撫でる……


 すると──


 「ごめんなさいッッ!!!!」


 うわっ!?びっくりした!なんだなんだ?教室中に響き渡る声量で雛が謝罪をしてきた。教室の床で土下座までして……。とてもダウナー系ギャルの行動とは思えない。


 「ひっ、雛?急にどうしたの……?」

 「私も謝罪した」

 「えっ、と……うん。……え?」

 「私だって!……謝ったよ?」

 「……そう、だね。うん。見ればわかる」


 雛の土下座に対して、俺がそう答えると、雛はガバッと勢いよく起き上がりながら「どうして私の頭は撫でないの?」なんてことを真顔で言ってきた。


 「あぁ、そういうことね。びっくりしたぁ〜。はいはい、こっちおいで」

 「楓は本当に仕方がない」


 何に対する仕方がない、なのだろうか?雛のダウナー系なイメージだったり。雛のクールな印象だったり。跡形もない物ならば、いくらでも思い浮かぶのだが……


 そんなことを考えていると、俺に頭を撫でられていた絵麻を押しのけた雛が俺の膝の上に座る。


 「はい。楓、好きにしていいよ」


 俺の好きにした場合は、頭を撫でる程度では済まないのだが……。今回は遠慮するとしよう。


 こういう場面でこそ、つつしみを持たねばならない。精神年齢が二十歳を超えている奴が、女子高生の頭を撫でられる事に喜びを感じている時点で、慎んでいるのかは甚だ疑問だが。


 まぁ、どうでもいい。慎みなんて適当に言っただけで対して持ちたくもない。どうせ待つのならば女性を口説く技術を持っていたい。


 「雛はいい子だねぇ……」


 雛の髪はとても手触りがいい。ずっと触っていられる……。


 「チッ」


 ──ん?舌打ち??絵麻がしたのか?


 ふと、雛の頭を撫でながら絵麻の方をチラリと見ると──


 なんか、小声でぶつぶつ呟いていた。


 怖いんだけど。


 成長した絵麻はこの程度では病まないはずなのだが……。これで病んでしまうのならば、あの特訓の日々(特訓と称して絵麻を曇らせて楽しんでいました。)は何だったのだろうか?


 名残惜しいが仕方ない。


 「はい、おーしまい」


 膝の上に座っている雛を立たせる。雛はまだ物足りなそうだったが、このまま続けると絵麻が病みモードになってしまう。危なかった。高校では精神状態に配慮すると決めたのだ。


 ……そういえば、俺が絵麻のことを曇らせ過ぎたせいで中学時代に大変な事になりかけた事件があった。あの時は、雛にも迷惑をかけて──


 ────………………あれ、もしかすると。


 二人が仲悪いのって俺のせい??




 ……まぁ、細かいことは考えても仕方がない。とにかく、二人には仲良くなってもらいたい。


 しかし、どうしたら仲良くなってくれるのだろうか……?


 んー、難問だなぁ。


 俺が考え込んでいると、クラスメイトの一人が「親睦を深めるためにカラオケ行こう!」と呼びかける声が聞こえてきた。


 そうだ!そこで二人の中を取り持とう!我ながらいいアイディアだな。さっそく、参加することを伝えに行くとしよう。


 よし!二人が仲良くなれるように頑張ろう!!


 「カラオケ、楽しみだねっ!」

 「「は?……いや、行かないけど」」


 「…………え?」



 「「…………行かないから」」

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TS転生したので女の子相手に体で稼いでいたら、それを知った幼馴染が病んだ 冬織神 歌檻 @kaori0huyuorigami

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