異世界ファンタジーですが、魔法もモンスターも出てきませんし、剣での戦いや国同士の争いもありません。
ですが、ここには何よりも温かく豊かな「日常」があります。
ひとつひとつのお話が、ひとりひとりのキャラクターが、丁寧につくられた料理のように、丹精こめて育てられた花のように、愛情深くこまやかに描かれています。
はじめは読者に良い印象を与えないようなキャラクターにも、読みすすめれば彼なりの思いや考えや事情があり、家族に愛されていることがわかります。
また、「食べること」の大切さを語っているのも、本作の大きな魅力のひとつ。
食べることは生きることであり、生命を繋げることだというキャラクターたちの想いが胸に沁みますし、登場する料理やパンやお菓子も実に美味しそうです。私もオルガのつくるデニッシュが食べたい!
読むたびに、自分も一瞬一瞬を大切に過ごそう、人間という存在そのものを信じようと思えることでしょう。
小さな幸せ。
でも、それこそ、きっと誰にも大切ななくてはならないもの。
生きていくうえで大切なことがぎゅっと詰まった短編集でした。
わたしは何より、幸まるさんのあたたかな眼差しが素敵だと思いました。
人生観をそのまま表した、優しい物語です。
アニメも漫画も小説も、だいたい、ヒーローがいてヒロインがいる。
活躍する人たちがいる。
だけど、どの世界にも、ヒーローやヒロインでなくとも生きている人たちがいて
その誰もが、その人自身の人生の主人公なのです。
生きる、ということを大切に描いた物語。
「種を蒔く」話がとても好きでした。
みんなそうして、優しくあたたかく眼差しのもと、微笑んで生きていけますように。
小説を読む時、その読み方は人それぞれ。僕はそう思っています。ルールなんてない。自由に読んでいい。最初から読まなくても、又は好きな部分だけ繰り返し読んでも、どんな読み方でも自由。
だけど、こちらの物語。じっくりと、そこに書かれている言葉、文章、人物、出来事、そしてそれらが織りなす物語、噛みしめる様に、ゆっくり、じっくり、深く、深く、愛して、抱きしめて、読んで頂ければ幸いです。
何故なら、筆者である幸まる様が伝えようとする事、その意味、とても、とても、深みがあり示唆に富んでいます。小説家なら当たり前かもしれませんが、それでもこう書かせて頂きます。
言葉をとても大事にしていらっしゃる。
僕はそう思うのです。
ライフワークの様に、日々少しづつ書かれていたこの領主館シリーズを、カクコン10の為にまとめられました。異世界ファンタジーですが、普通の異世界ファンタジーではありません。「生きている人間の異世界ファンタジー」です。そこの世界でしっかりと根を張り、人生があり、日常を生き、そして何かを感じる。
派手なバトルシーンも、アーティファクトとかも出て来ません。ですが、それでも異世界ファンタジーです。純然たる世界観を持ち、濃厚な人間ドラマがそこにあります。
お勧め致します。
大好きな物語です、広くカクヨムの世界にこの物語をご紹介させて頂きたいと思いました。きっと、忘れられない物語になるはずです。
皆様、宜しくお願い致します( ;∀;)
ただいいお話というだけと違いまっせ
領主の末息子がスープの入った鍋を引っくり返したとき、そのスープの中身から誰が口
にするものだったかを考え反省し、領主館の厨房で働く人たちに頭を下げる。
話はそれだけに留まらず、頭を下げた末息子の侍女への体罰事件へと発展する。
ああ、ダメやわ。この体罰を与えた長男は領主にはなられへんとオカンはあっさりと切
り捨てたのやけど、思慮深く優しい作家さんは彼に挽回のチャンスを与えた。
ときに立ち止まり考える機会をもらい、共に成長してゆける。
そんな物語、一緒に楽しんでみまへんか。
この物語が終わってまう。ショックを受けてたのやけど……。
いやいや、まだまだ終わりまへんというメッセージに安堵しているねん。良かったあ。
嬉しい!
この物語は、英雄も豪傑も居ない、血沸き肉躍る冒険とも歴史に残る大事件とも無縁の、古今東西、きっとどこにでもあった日常の物語です。
封建時代の君主制国家と思われる世界観の一隅、領主館と呼ばれるお屋敷で織りなされる、老若男女それぞれの人間模様。
そこで語られるのは、恋だったり仕事だったり自分自身の在り様だったり子育てだったり未来だったり大切な人との永遠の別れだったりと、様々なことに迷ったり悩んだりしながら、その日その日を前向きに生きている、下は四歳の少女から、上は年齢不詳の老人までの、等身大の人々の姿。
彼らの笑顔が、『そうだった。幸せってこういうことだったね』ということを、思い出させてくれます。仕事や生活という雑踏の中を黙々と歩き続けていた時に、ふと誰かに呼び止められて、道端の小さなカフェに誘われ、薫風の中で美味しいお茶とケーキの時間を頂いたように。
そんな優しい日常の物語がお好きな方は、是非。
舞台は、とある地方の領主館。
八人の領主の一族と、彼らの下で働く使用人達が織りなす日常が色とりどりに詰まった、珠玉の短編集です。
地方とは言え領主の館ともなれば、働く人間は少なくありません。となれば、その彼らが抱える事情も様々です。
時には恋愛に胸を焦がし、時には噂話で一喜一憂…こうした様々な問題や事件が、シンプルで無駄のない文体で生き生きと描かれていきます。
また、主だったメンバーは調理場の面々。彼らが幾度となく見せる仕事に対する情熱は、この物語における人間ドラマの深みを一層増してくれています。
人間ドラマという意味では、領主の一族もまた然り。まだまだ幼い末っ子から、領主の座を退いた老紳士まで、彼らにも当然、様々な思いや考えがあり、それに伴ったエピソードが展開されていきます。
そのエピソードの幅が非常に広く設けられているのが、本作の魅力のひとつです。ままならない恋愛、新たな一歩への不安、喪失との向き合い方、見守る事への葛藤…挙げ始めたら本当にキリがないほど、多岐に渡っているので、読み飽きるという事がありません。
魅力と言えば、際立った登場人物達の個性もふれないわけにはいきません。
ここがこの短編集の絶妙な匙加減なのですが、とあるエピソードで出てきた人物が、別のエピソードで重要な立ち回りを見せたり…と、馴染みの顔が少しずつ増えていくので、読み進めるのが楽しくなっていきます。そして、いつの間にか推しが出来ます。
ちなみに、私の推しは長らく老紳士とルイサだったのですが、一周回ってアントニーとコリーのペアになりました。自分で言うのもなんですが、かなりの通です(笑)
真剣に、そしてたおやかに。生を謳歌する活気で溢れる領主館の物語を、是非一度覗いてみて下さい。
地方領主の領主館で働く人々の人間模様と、彼らが仕えるご主人様一家の、静かで大切な時間の流れ。特に厨房で働く方々の恋愛模様がとても素敵です! 優しさと愛おしさ、それを見守る仲間たちの眼差しすべてが包み込まれるようです。
ただ、優しさだけではない、考えさせる一面もあって……。
突出して強烈な性格の方、というのはあまりいませんが、一人一人の個性が静かに光って立っています。なんだかフェルメールの絵画を眺めているような気持ちになります(変な例えすみません)
使用人の方々も領主一家の方々も、自分らしさを持った人間なんだなとしみじみ思います。手を伸ばせば触れられそうな、親しい気持ちになります。
領主館を舞台に繰り広げられる人間ドラマを扱った連作短編です。
使用人たちのラブストーリーもあれば、領主家族の物語も。
登場人物のそれぞれに人生があり、日常の中に笑いと涙があり、命のきらめきが感じられます。
それはいつの時代にか繰り広げられていた、ささいな日々かも知れません。
でものぞき見させてもらう私たちに、明日を生きる力を与えてくれます。
そして、自分の何気ない日常が、とても大切なものだったと気づかせてくれるでしょう。
群像劇という性質上、きっとお気に入りのキャラクターや、応援したい人物に出会えるはず。
移りゆく季節の中で、作者様のあたたかいまなざしを通して描かれる、領主館の人々の日常をぜひのぞいてみてください。