新世界より
だろうね、というべきか。
新世界より来たかのような転校生は、瞬く間に噂になった。
聞きつけた他のクラスから、果ては高等部から。覗きに来る生徒がひっきりなしに訪れるせいで、馬酔木組の前は今日一日放課後まで慢性的な渋滞に見舞われえていた。動物園のパンダが相手でも平日ならギリギリ打ち勝つ見学者だったんじゃないかな。利用者としてはいい迷惑で、おちおちトイレにも行けなかった。もし私が頻尿だったら、今頃手が出ていただろうね。
転入早々話題の中心人物に据えられてさぞ窮屈な思いをしているだろうに、真藤こてつはよくもまあ気丈にもニコニコし続けていられるなと思う。それを放課後のチャイムが鳴るか、あるいは教師の叱責で人波が解散するまで崩さなかったもんからたいした人間性だった。人間性で片付けて良いものか、見た目で注目されるのは慣れっこなのか。はたして慣れイコール幸せなのか。
ともかく人の噂も七十五日、ましてや鮮度が決め手の女子校の噂がさらに長いはずもなく、一週間を超えた辺りで見学者はほとんどいなくなっていた(言い換えればそれまではひっきりなしにいたということだけど)。
特にこの時間帯——帰りのHR終わりには、必ずと言っていいほどクラス外から来た訪問者にどこかしらへ誘拐されていく光景が、危うく日常へ形態化していくところだったよ。
ようやく騒動もない放課後が帰ってきた。私は装飾のないスクールバッグを引っ提げ、後ろ扉から出ていく。同じように教室を後にする人達は部活動へ行く者なり帰路につく者なりに分かれるわけだけど、当然前者ではない。お察しだよね。最初から読み直してみなよ、青春を謳歌する人間の語り口じゃないから。
学校に残る用事もないからすぐに帰宅したっていいんだけど、直後は校門が混み合ってる。だからどこかで時間を潰したいわけだ。素直に部活動に入ればいい?そうだね、部活動って自分のやりたい行動を叶える場だと思うんだけど。『イヤホンなしでスマホの音楽を鳴らしながらお菓子を食べて自堕落に過ごすなどする』部活動があったなら即入部してたね。
あるはずもない。しかして私はフリーの身のまま『イヤホンなしでスマホの音楽を鳴らしながらお菓子を食べて自堕落に過ごすなどする』活動に取り組んでいる。
もう授業で使われることはなくなった三階建ての旧校舎、機材を残して普段はがらんどうのその中は、同好会規模の部活動が臨時クラブ棟として利用している。なんでも創始者が中等部高等部が一体となって切磋琢磨し合うことで教育的にもうんぬんかんぬんだとか提唱したらしい凪端女学園には、クラブ棟に収まりきらない数の部活動の類が存在しているらしい。
特に最上階の最先端に位置する
かくして学校の中にパーソナルスペースを獲得してからというもの、時間を潰したい日にはうってつけのこの場所へ通うのが密かなルーティーンとなっていた。
面倒な階段を上がりながら、ちょうど白からオレンジへ変わるだろうグラデーションの太陽を見やる。二階から三階へさしかかろうという最中だった。
階段の踊り場に転校生が落ちていた。
いや、本当に階段から落下してたわけじゃないんだけど。『落ちている』と表現するしかないじゃない。踊り場の隅でうずくまっている姿は、まるで道端に転がっている忘れ物のようで、コンクリートモルタルの白壁に埋もれてしまいそうな
初対面——というより初遭遇、なんて言葉のほうが似つかわしいこの瞬間を、私は生涯忘れることができないだろうね。
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