第56話 映画の中の恋

『私。実は、未来から来たんです』


『未来?』


『はい。2018年の未来です』


『2018年……』


『私は高校生で、美術部員で忘れ物を取りに行ってその時、眩しい光に目がくらんで、この時代にやって来ました』



 半ば放心状態の信治しんじを見るも、奈美子なみこは話を続ける。そして、バッグからスマホを取り出す。


『これ、その時代にある電話です。これで離れている人と会話したり出来るんです』


 菜美子は信治にスマホを手渡す。信治は手に取りまじまじと見つめている。


『これが電話? それなら、本当に菜美子さんは……未来から?……何だよそれ。何の悪い冗談……』


『冗談ではありません』


『……だよな』


『……はい』


『……そっか。あ、だから“いつか離れなければいけない”って言ってたんだな』


 菜美子は思わず目を伏せる。


『はい……。なかなか伝えられなくて、ごめんなさい』


『菜美子さんが謝ることはない。事が事だし、言い辛かっただろ?』


『信治さん……』


『そっか……。未来か……』


 信治は呟き宙を見つめる。


 夕日がどんどん沈んて来て、辺りは薄暗くなって来た。


『菜美子さんと離れたくない。離れたくないけど、それまで一緒にいよう。いつか戻る時が来るまで』




 信治は優しく菜美子の手を取り、切なげに微笑んでくれた。それでも、菜美子の心は苦しくて、はらはらと涙が頬をこぼれ落ちて行く。


 真凜は映像を見ているうちにエドワーズとマリアに重ねていた。


――エドワーズとマリアは生まれ変わって、今こうして私と真くんとして出逢っているけど……この人達はどうなるのかな?


 チラリと真を見ると真剣に画面を見ていた。更に場面が進んで行く。



『信治さん、私ね。そろそろ戻る気がするの』


『ああ。俺もそんな気がしてた』


 胸が痛い。


『こっちへ来る前に絵が光ったって話したでしょ?』


『ああ』


『女の子が描いてあったってことも?』


『覚えてるよ』


『あの女の子ってもしかすると、私だったのかもしれない』


『そうかもな』


 淋しげに信治は微笑む。


『忘れないでね。約束』


『当たり前だろ? 絶対に忘れない』


 何があっても忘れない。忘れられるはずがない。初恋の人。



――切ないな……。ハッピーエンドになれるのかな? この2人。


 映画はどんどん進み、奈美子は現代へと帰って行った。


 気がつくと真凜の頬に涙が伝って行った。  

 真凜の目の前にスッとハンカチが差し出された。見ると真が優しい瞳を向けている。


「ありがとう」


 真凜は真に聞こえる程度の声でお礼を伝えた。


 やがて物語はクライマックスとなり、奈美子はある男性と幸せな結末を迎えた。


 真凜は思った結末ではないけれど、幸せな結末にホッと胸を撫で下ろしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る