家族のこと
「ところで、さっき言おうとしてたことって何?」
「え?」
「ホラ、俺が遮っちゃって言えなかったやつ」
「あぁ……えっと……」
高良先生との授業、私も楽しみにしてたんです。と言おうとしていたのだが、よく考えたら明け透けな気がした。だから、言い回しを変えることにした。
「勉強を教えてもらえるのはすごく有難いです。でも、高良先生の負担にはなりたくないので、先生が忙しいときは授業やりたくないです」
顔を見ながらだとうまく話せない気がして、前方の黒板に向かって話した。横から感じる高良先生の視線には気付かないフリをした。
「矢野は優しいね」
そう言う高良先生の声が、あまりに優しくて、顔が熱くなるのを感じた。
「あはは、矢野照れてる」
「照れてません」
「え~? でも顔赤いよ~?」
クスクス笑いながら覗き込んでくる高良先生に顔を見られないように、私はそっぽを向く。
「そうやってさ、矢野のこともっと教えてよ」
「教えるって、何を?」
「何でもいいよ」
「何でもいいって言われても……」
「矢野が話したいと思ったことでいいよ」
「えぇ……」
「じゃぁ、質問するから答えて?」
「質問?」
「うん。まず1つ目の質問ね。誕生日はいつ?」
「え、そんなこと?」
思わず振り向くと、高良先生と目が合った。
「いつ?」
と、微笑む瞳は、甘ったるいほどに優しい。
「……11月28日です」
「じゃ、いて座だ」
「なんで分かるんですか?」
「11月生まれの知り合いがいて座だったから、もしかしてと思って。じゃ、次の質問。血液型は?」
「A型です」
「あ、俺と同じだ。矢野、A型っぽいよね」
「そうですか?」
「うん、きっちりしてるとことか」
「高良先生はきっちりしてるんですか?」
「あのねぇ、血液型占いをやってるのって日本くらいなもんで、学術的にはあまり根拠がないらしいよ。それに、占いっていうのはただの統計だからね。A型の人全員がその条件に当てはまるとは言えないの」
「自分で言い出したくせに」
「例外もあるってこと」
「つまり、高良先生はきっちりしてないってことですね」
「ハイッ、じゃ、次の質問!」
「都合が悪いからって、話を逸らさないでください」
「家族構成は?」
家族――その言葉に、心臓がドクリと嫌な音を立てた。だけど、答えないと、かえって気を遣わせてしまう。それに、答えにくいだけで、答えたくないわけじゃない。
「……今は母と二人暮らしです。と言っても、母は仕事が忙しくて家にいることが少ないので、ほとんど私一人で住んでいるようなもんですけど。……父は、」
この先は言おうか悩んだ。でも、少し考えてすぐ、高良先生には話してもいいと思った。
「私が生まれて半年のときに、病気で亡くなりました」
お父さんのことを話すと、大抵の人は可哀そうとか辛かったねとか言う。高良先生はどう思うだろう。何て言うだろう。私はドキドキしながら高良先生の相槌を待った。そして、返ってきた言葉は予想外のものだった。
「俺も」
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