第56話◇しまった扉◇

木村は息を切らしながら言った。

「黙って帰るなんてひどいじゃないですか。」

木村は怒っていた。

「ごめん、奥様にはお伝えしたのよ。」

 エスカレーターが一階に着くと、瑠璃子は真っ直ぐ出口に進んだ。そして、振り返っって木村に言った。

「会場に戻って。」

「瑠璃子さん、僕、十二月の半ばにイタリアに旅立つのです。それまでに今治に行っても良いですか。」

 木村の後ろでは真由美が心配そうな顔で見つめているのが見えた。

「駄目よ。」

 瑠璃子はそう告げると、木村に背を向けて外に出た。ドアが閉まると同時に「パタン。」と、言う音がして「ふんべつ」と言う名の扉が閉まった。

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アラ還の扉⓵瑠璃色 @kondourika

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