第35話◇私なんだか熱っぽい◇

そう言うと佳乃子は笑った。

「そーなの。」

「今度紹介するわね。」

「楽しみにしています。」

 エレベーターが最上階に着くと、レストランの大きな窓からは今治のまばらな夜景が見えた。レストランの入り口には、消毒液が置いてあり、テーブルにはパーテーションが置かれていて、客もまばらだった。周りを見回して佳乃子が言った。

「レストラン開いていてよかったわ。電話してみたらやっているって言うから予約したのよ。いつもの店でも良かったのだけど、相当久しぶりだし、やっと緊急事態宣言終わったからね。たまには洋食も良いかなって思ったの。」

「そうよね。」

 相槌を打った瑠璃子を見て佳乃子が言った。「瑠璃子さん、そのドレス素敵ね。良く似合うわ。」

「ありがとう。これね、姪の結婚式に着て行く予定で買ったのだけど、コロナで中止になってしまって、着て行くと所が無くなったの。値札が付いたままだったのよ。佳乃子さんも素敵。」

 佳乃子は黒いコートの下はダークグリーンのラメをあしらったシンプルなデザインのワンピースを着ていた。細身の佳乃子には良く似合っていた。

「お二人とも、相変わらず、お美しいですよ。本当にお会いできて良かったです。」

木村がそう言うと同時に、ウエイターが、シャンパンを持って来てそれぞれのグラスに注いだ。

「シャンパン?木村さん頼んでくれたの?すごいね。」

 瑠璃子が言うと、佳乃子が続けて言った。

「ホント!美味しそう。シャンパンなんて久しぶり。うれしい。」

「お祝いです。再会できたので。乾杯しましょう。」

 木村はそう言うとグラスを持ち上げた。グラスに注がれた薄いピンク色の無数の泡が消えていくのを見ながら三人で乾杯をした。

前菜が運ばれてきて食事が始まった。三人はこの一年のコロナ禍でそれぞれの大変だった出来事を話した。木村は新発売のアロマオイルの商品情報をパンフレットを見せながら説明した。木村は真面目で、どんな時でも必ず仕事の事は忘れなかった。が、アロマオイルのガラス容器のコンペティションで優勝した事は話題にしなかったので、瑠璃子もあえて言わなかった。 

前菜の後、スープ、魚料理が出された後に佳乃子がだるそうにハンカチで額を押さえながら言った。

「私、なんだか熱っぽい。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る