02
嫌な予感がする。
「けいとのお父さん!」
「わっ、びっくりした……今日は暁音ちゃんか」
「この家って部屋が余っていましたよねっ? 私をここに住ませてください!」
ああ……家出とか言い出した時点でこれは避けられなかったか。
「僕は構わないけどご両親が納得してくれないとできないよ」
「それならいまから電話をします!」
「うん、許可さえ貰えれば僕もけいとも大歓迎だからね」
またそういうことを……。
何故父はこうなのか、知っている相手だからとなんでも受け入れればいいわけではないのに。
「代わってって」
「うん」
はぁ、見ていられない。
ここにいる必要もないから部屋に移動すると「やっぱり琴美じゃないから嫌だよね」と背中にぶつけられた。
「別に嫌ではない、私はただ特に考えもせずに受け入れてしまう父に呆れているだけだ」
どうせ家に友達が住めば私が楽しくいられるからとかそんな下らない考えからでしかない。
「暁音ちゃんもう一回代わってだって」
「あ、はい!」
高確率でここに住むことになりそうだが働いて稼いでいる父がそう決めたのなら結局受け入れるしかないか。
一円すら払っていない私が偉そうに言えることではない。
「暁音ちゃんのご両親……というかお母さんは受け入れてくれたよ」
「そうか」
「それに暁音ちゃんがいればけいとも楽しく過ごせるだろうからね」
こう……予想が当たりすぎてしまうのもどうにかならないものか。
「けいと……」
「そんな顔をするな、それより部屋に案内する」
ベッドはないが布団はある、布団さえあれば風邪を引くことはない。
彼女はベッドでも床でも寝られる人間でよかったと考えた方がいい。
「あのさっ、けいとの部屋でもいい!?」
「別に構わないが暁音がいいのか? 一人の時間も欲しいだろう?」
あと私は寝る時間が早めだからすぐに消す羽目になって楽しめないと思う。
そんな制限がある家に住むよりもさっさとご両親と仲直りをして住み慣れた家、部屋で休む方が遥かにいいのに不思議な選択をする人間だ。
「ううん、同じ建物の中にいるなら一緒の部屋がいい」
「なら部屋が余っていることを出した理由は?」
「そ、その方が自然かなーって」
「はははっ、計算高い女だな」
ああ、結局余っている部屋は物置きとしても使われずに終わりそうだ。
「ベッドと布団、どっちがいい?」
私も床でも問題なく寝られるからどちらでもよかった、あとこちらの方が朝、自由に行動しやすいのもある。
「私はお布団でいいよ」
「そうか。だがそうならベッドからは少し離れてくれ、下りる際に踏みかねないからな」
「近くがいい」
いまは家出をしてきたばかりで不安定だからなのだろうか? 少なくともいつもの彼女ではない。
あ、先程大声を出していたときは正に彼女だったが二人きりになってからは、なあ?
「暁音、なんか学校と違うな」
「そう? 私なんていつもこんな感じだけど」
学校では琴美が近くにいるからなのか? いまの彼女はなんだか子どもっぽい感じがするが。
「まあいい、ゆっくりしてくれ、あと明日になったら琴美と出かけてくる」
「それ私もいきたい」
「それなら付いてくればいい、イトも喜ぶだろう」
「いと? けいとって自分のこと名前で呼んでいたっけ?」
「違う違う、イトというのは……あれだ、明日会えば分かる」
琴美は知っていても彼女は知らないから仕方がない。
早く明日になってもらいたかった。
「この子がイトだ」
「「初めまして」」
「で、こっちが暁音だな」
何故か暁音が私の後ろに隠れているからやりづらい。
あと琴美から何故か睨まれているし、イトが普通に存在してくれていることだけが救いだ。
「二人とも名前で呼んでいい?」
「私は構わないわ」
「私も」
名前しか教えていないからこればかりは仕方がない。
まあ、仮に名字を教えていても彼女なら名前で呼んでいそうではあるが。
「えっと、けいとと琴美が凄く仲良しなんだよね?」
「私と琴が凄く仲良しだよ」
「そうなんだ? けいとは違うんだ」
自分で言うのもなんだが凄く仲良しというのは違うと思う。
でも、安定して一緒にいられるのは確かで、私も求めているから友達ではある。
「なんだろう、全然知らないからかもしれないけど今日の琴美は怖く見える、あのときとは違うよ?」
おお、やはり彼女から見てもそうか。
朝にイトに会ってほしいと、暁音が住み始めたことを話してからずっとこれだったのだ。
不満があるなら直接ぶつければいいのに睨んだりするだけだったから逆に疲れた。
「ああ、それは凄く仲良しとかなんとか言っているくせにいとの家にこの子が住み始めたからよ」
「嫉妬しているの?」
「別に私の家でも問題なかったけどね」
煽りとも取れる彼女からの発言を思い切りスルーして琴美は暁音を見ながらそう言った。
ああ、隠れていたのはそういうことか、睨まれていたのは暁音も同じらしい。
「いともいとよ、夜の内に連絡してくれればよくない?」
「言い訳はしない、すまなかった」
「ちょっ、けいとが謝る必要はないでしょっ? 私が急に家にいったのが悪いんだし……」
「よく分かっているじゃない、この件で悪いのは考えなしに動いた暁音なのよ」
元々抑えるタイプではないが今日はどんどんと吐いていく。
こちらの裾を掴む力がどんどんと上がっているのもあって見ているだけではいられないのが残念なところだが。
「許可をしたのは父もそうだが私も同じだ、これ以上は言わないでやってくれ」
「ふん」
この二人はあれだ、暁音が琴美のことを大好きなように見えて実は琴美の方が暁音のことを好きでいるのだ。
一番は何故頼ってくれなかったのかというそれ、二番目は多分私に対してで「簡単に許可したりしないでよ」と言いたいのだと思う。
「いいな、私もけいとのお家に住みたい」
「はは、部屋はまだあるが遠くなるから現実的ではないだろう?」
「関係ないよ、それに早寝早起きとお散歩が好きだからなにも困らないから」
「ま、私の父とイトのご両親の許可を貰えたらだな」
「分かった、いまから確認してくる」
あ、おい……。
最後までいてと言っていたのは彼女なのに彼女が消えてしまったら意味がないだろう。
「私も住む」
「はは、琴美は冗談を言うのが上手だな」
「冗談じゃないから、それとも暁音とあの子にだけ許可するの?」
「待て、別にそんなことは――」
「だったらいいでしょ」
なんにせよ父からも許可が出なければこの話は終わってしまうのだ。
イトとは連絡先を交換しているのもあるから家で待っておくことにした。
「ただいまー」
こういうときだけは厳しい態度になって「駄目だよ」と言ってくれないだろうか? いやないか。
そんなことができる人間ならこうはなっていない、自由にやりすぎていた母にだって強気に出られてはいなかったからな。
そんなときにイトから電話が掛かってきてとりあえずは三人に任せて離れた。
「大丈夫だって、だからあとはけいとのお父さんに許可を貰うだけだね」
「そ、そんなに簡単に許可を貰えることなのか?」
「もちろん、話し合いはするって言っていたよ」
そ、それはそうだろう、どうしたってお金はかかるものだからな。
ただ、親としてそこは止めてもらいたいところだった、父みたいなのは一人だけでいい。
「けいと」
「ああ、家にいこう」
こうしてすぐに会えるのは近いからでしかないが……あの高校の制服はどこの物なのか。
ここら辺には私達が通っている高校以外の高校がない、中学校なんかは点在しているが高校に限って言えばそういうことになる。
となると、そもそも高校生として見ていたのが間違いなのか? 実は成人していて、ただコスプレをしているだけの可能性も……。
「言い忘れていたけど私は中学生」
「そうだったのか」
なにも言っていないのにまたこれか。
「敬語を使わなくてごめん、だけどけいととは普通にお喋りしたかった」
「いや、そのままでいい」
「ありがとう、けいと大好き」
「はは、それは早すぎるだろう」
私にとって大事ではないからなどと言っていたくせにこの差は面白かった。
結局は私も彼女も人を求めてしまうということだ。
「ただいま」
「お邪魔します」
「やっと帰ってきたっ、その子はお父さんに任せてけいとはこっちに来て!」
一応確認をしてみるとやたらとぐったりとした感じの父が、仕事帰りなのにすまない。
だが、再婚をするなり、しっかりと断ることができていればこうはなっていないわけだから父も全てが正しいわけではないからなにも言わなかった。
「さっきまでビデオ通話をしていたんだけどこれだけだと微妙だからってここで直接話し合うんだって」
「琴美は?」
「けいとのお部屋で拗ねてる。私が昨日はあそこで寝たって言ったら……」
「荒らされていないといいがな……」
かといって大好きすぎるのも問題だな。
「けいと……今日はおかしいよ」
「みんな暁音が羨ましいみたいでな」
「でも、これでみんな集まることができるわけだからいいことだよね、誰かを仲間外れにしなくていいのはけいと的にも楽だよね」
駄目だ、どうしても私が楽しめるかどうかで考えてしまうからこれから先が容易に想像できてしまった。
まあ? 琴美に敵視されるのはきついから一緒にいてくれるのは楽でいいと少しだけでもいい方に考えていくしかない。
「あんた帰っていたんだ」
「私の家でもあるからな。暁音を取ったりはしない、だからそう怖い顔をするな」
「こういう顔ってだけでしょ」
いつもはプラスの方向でころころと変わるのに今日はマイナス方向で固定されているから言っているのだ。
あとそのままだと整った見た目が台無しだ、寧ろ整っているせいでより怖く見えるというものだ。
「ご両親が来るのだろう? だったら一階にいてあげないとな」
「そう言うあんたこそその子を連れてきたんならちゃんと見てあげなさいよ」
「もっともだ」
しかしなんだ……何故イトはこんなにも満足した! みたいな顔をしているのか。
私と同じで何回も無表情娘と言われそうな感じだったのに全くそんなことはないみたいだ。
「許可してくれたからけいとのお父さんも大好き」
「待て待て、気に入るのが早すぎて怖くなってきたぞ」
「イトちゃんのご両親ともちゃんと話さなければならないけどね、現時点ではあくまで僕ら的には大丈夫というだけでしかないよ」
「……やっぱり駄目?」
「うっ、だ、だけどほらっ、イトちゃんからしか聞けていないから、流石にそれだけだとね……」
負けるな父よ、中学生にすら堂々としていられなくてどうする、あと父にぐらいは名前を教えてやってほしいと思う。
それから追加で二時間ぐらい父は格闘することとなった。
だがそれのおかげ? それのせい? で住むことが決まってしまったから私は廊下の隅で体操座りをする羽目になった。
格好つけたいとかそういうのもなく、ただただ私のことを考えて動く人間だから断るつもりなんて微塵もなかったからな……。
「部屋は二つ余っているからどっちでも好きな方を選んでいいよ」
「私は暁音と一緒がいいです」
「敬語はいいよ、暁音ちゃんがいいなら僕も大丈夫だよ」
もう父はいい、あとは琴美に頑張ってもらうしかない。
一人がいいのではなくて暁音だからこそ問題なのだ、無理やりにでも引っ張っていてもらうしかない。
「わ、私はけいとのお部屋がいい」
「私もけいとのお部屋で寝る」
「ふーん、あんたもてもてじゃない、それなら私もけいとの部屋で寝るわ」
なーにを言っているのか、父も全然解決していないのに満足したような顔で出ていくんじゃない!
「待て待て、そんなに広くないぞ」
「いまは冬なんだからある程度くっついていた方がいいでしょ?」
「ならイトがベッドに――」
「私もベッドがいい!」
な、なんだこいつは!
いや確かに実は琴美の方が好きでいる~みたいなことを言ったのは私ではあるが暁音だって琴美に好き好き言っておいて変なことをしている。
もうこれなら私の部屋を譲って私がより物寂しい部屋で休む方がいい気がしてきた、一階にあるからすぐに移動できて楽でいいだろう。
「ほう、なかなか落ち着くではないか」
「家具がなくて寂しいけどここもいいかもね、なによりトイレが近いのがいいわよね」
「「これなら喧嘩にならないよね」」
もう嫌だ、だからこうなった責任を取ってもらうために私は父の部屋に逃げ込んだ。
「けいとっ? え、もしかしてここで寝るの?」
「私と父さんは家族だ、だからなにも問題ないだろう。それとも琴美や暁音の方がいいか? ああ、イトに対してもしっかりできていなかったからイトの方がいいか」
「そ、それは駄目だよ」
そうだな、そんなことをしたらご両親が怒るどころの話ではなくなる。
「あとやっと二人きりになれたから言っておくが私の――」
「それは駄目だよ、だって何回言われてもそこは変わらないからね」
「はあ……意地を張ってもいいことはなにもないぞ」
「けいともね」
明日も学校があるからもう寝てしまおう。
一日ぐらい夜ご飯を食べなかったりお風呂に入らなくても問題な――さっさと済ませてくるか。
「け、けいと」
「暁音か、いまからお風呂を溜めるから入りたいなら入ればいい」
「あ、うん――あ、そうじゃなくて、結局お部屋を借りることになっちゃったけど……いい?」
「ああ、自由に使ってくれ」
常識がある存在達だからある程度は任せることができる。
もう一つの部屋でも私の部屋でもできるものなら自由に寛いでくれればよかった。
ふむ、もう駄目だと理解できればこうしてすぐに切り替えられるのは自分のいいところだな。
「だ、だからけいとのお部屋を……」
「どこでも自由に使ってくれればいい、ここはもう暁音達の家でもあるのだ」
今日は忙しくて落ち着かないまま終わろうとしているから明日からだ。
本人達を、と言うよりもそれぞれのご両親を不安にさせないためにもちゃんとやらなければならなかった。
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