Ch. 5 - 愛の日
バレンタインデーは、私にとってずっと居心地の悪い祝日だった。
それは私が独り身だからというわけではなく、「愛の日」だからだ。
愛という概念は、私にとってずっとつかみどころのないものだった。
私の人生を通して、私は愛に包まれて育ったわけではなかった。
両親は「ご飯を食べさせて、屋根の下で暮らさせることが愛だ」と言っていた。
でも、それって親として最低限のことをしているだけじゃないの?
ハグをすること、「愛してる」と言うこと、
私が喜ぶと分かっていて何かをしてくれること、
そういう「愛」にまつわるものを、私は理解できない。
SNSでみんなが「愛」について投稿するのを見るたびに、違和感を覚える。
私にとって、それは普通のことじゃない。
いつか、私もそういうものを経験してみたい。
4年間付き合った元恋人がいたけれど、バレンタインデーに特別なことをしたことはなかった。
普通の恋する女の子みたいに、甘い時間を過ごしたかったのに——
でも、私が一緒にいた男の子は、そんな小さな願いすら叶えてくれなかった。
愛? 私には分からない。
家族の愛を受けたことがない私に、「愛」って何なのか分かるはずがない。
いや、言い方を変えよう。
私は「愛する」ことを知っている。
でも、「愛される」という感覚は、私にとって未知のものだ。
愛されるって、どんな気持ちなんだろう?
私が付き合った唯一の真剣な恋人は、そんな感情を私に与えてくれなかった。
今になって振り返ると、私はただ、彼が「愛されている」と感じるための存在だったのかもしれない。
彼は愛を返すことなく、ただ受け取るだけだった。
そして、その後に出会った「恋愛」も、同じようなものばかりだった。
ただただ、「無条件に愛されたい、世話をしてもらいたい」と願う男の子たちばかり—— でも、その愛を私に返そうとはしない人たち。
「愛される」という感覚を、私は知らない。
20代半ばになって、私は気づき、そして受け入れた。
家族からの愛を受けることは、もう叶わない願いだと。
私に残された唯一の選択肢は、恋人からの愛を通じて「愛される」ことを知ることだった。
でも、それすらも叶えられたことはない。
誰一人として、私に本当の愛情を分け与えてくれる人はいなかった。
私は、たくさんのセラピストに「愛」に対する葛藤を話してきた。
その頃の私は、心を閉ざしていた。
何度も傷つくくらいなら、最初から心を閉じた方がいい —— そう思っていた。
でも、あるセラピストが言った。
「心を開かなければ、愛されるチャンスすら得られませんよ?」
彼女の言いたいことは理解できた。
彼女は続けた。
「愛に限らず、人との関わりはすべてリスクを伴います。傷つくこともあるかもしれません。でも、もし最初から扉を閉じてしまったら、可能性はゼロのままですよ」
その言葉を聞いて、私は考えた。
「でも、私はもう最悪を経験した」
誰かに拒絶されることなんて、私にとって大したことじゃない。
家族に拒絶され、自分の体の尊厳を踏みにじられ、
すべての出来事が私の心を傷つけた。
そんな私にとって、たまたま人生に現れた一人の人間に拒絶されることなんて、どうでもいいことだった。
それでも、最近になって、私は少しだけ心を開いてみた。
そして、結局 — ある男の子に拒絶された。
彼の方からアプローチしてきたのに、何度か会ったあと、突然態度が変わった。
「君のことが本当に好きだ」と言っていたのに、
ある日を境に、彼からのメッセージはぱったりと途絶えた。
まるで、最初から存在しなかったかのように。
多くの女の子なら、きっと悲しむだろう。
私も悲しかった。
でも、思ったよりも傷つかなかった。
私は、その拒絶を受け入れた。
今の私は、大人になり、賢くなった。
自分の感情を整理し、乗り越える力を持っている。
「愛されたい」と願う気持ちは、きっとこれからも消えないだろう。
でも、子どもが母親を求めるように、必死にそれを探し求めることはもうない。
今の私は、ひとりでも穏やかに生きている。
多くの人が知らないであろう「直感」と「知識」を、私は得た。
それは素晴らしいことだと思う。
隠された祝福—— でも、時々考える。
「その代償は、何だったんだろう?」
まあ、どちらにせよ——
これが私の「バレンタインデー」という「愛の日」に対する考えだ。
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