第29話 見知らぬ女
「
目を開けた彼は、ずいぶん天井が高いなと違和感を覚えたが、自分が任務の為に田舎の集落を訪れていることを思い出した。
「よく寝てましたね」
「そうだね、さっき布団に入ったと思ったんだけど」
陸と
「
見ると、
上着を着れば、かなり近付かない限り銃を持っているようには見えないだろう。
「戦闘服姿でウロウロしていると、住民たちが不安になるだろう。とはいえ、万一『怪異』に出くわした時、丸腰では何もできないからな」
「分かりました」
「まぁ、『怪異』が現れたら、私と
身支度を整えた
「そうだな、
ヤクモの声が響くと、伊織は陸を、じろりと睨んだ。
以前、背後から怪異に襲われた際、ヤクモに救われたことが、伊織のプライドを傷つけたのかもしれない――陸は、曖昧に笑って受け流した。
昨夜、偵察に出した伊織の使い魔である
別の部屋に泊まっていた
陸は
「こんな何もない田舎で、続けて事件が起きるなんて……このままじゃ、安心して暮らせません」
「我々が、全力で事件解決にあたります」
肩を落とす老夫婦に、
「ところで、この集落に住んでいる
彼女の問いかけに、老夫婦は彼らの知っていることを惜しみなく話してくれた。
やがて両親が亡くなってからも、
「子供の頃は普通の明るい子だったと思うんだがね。都会の生活で、私らとは、感覚が変わってしまったのかもしれんなぁ……」
「そこにきて、あの事件が起きた時、警察にしつこく調べられたらしくて……それが
老夫婦から話を聞き終え、陸と
住民たちは、事件の話になると一様に不安を露わにした。
被害者たちが襲われた理由が判明していない以上、再び誰かが標的にされる可能性はある。それが自分かもしれないとなれば、住民たちの気持ちも、察するに余りあるものだ。
そんな中、陸たちは気になる情報を得た。
「そういえば、前に
住民の一人である中年女性は、眉を
「あなたが見た女性は、この集落の方ではなかったんですか?」
陸が尋ねると、中年女性は首を振った。
「知らない人よ。こんな小さい集落だし、余所から誰か来たら、すぐに分かりそうだけど、いつの間にかいた、って感じで。でも、その後、
「その女性を見たのは、事件の前ですか? それとも後ですか?」
言って、
「そうね、事件の前だったと思うけど……思い出したら、何だか気味が悪くなってきたわ」
そそくさと家に入っていく女性の背中を見送ってから、陸たちは、集合場所にしている滞在先の農家へ戻った。
客間に捜査メンバーが揃ったところで、伊織が口を開いた。
「それでは、皆さんが集めた情報を整理しましょう」
「じゃあ、
「被害者たちとトラブルを起こしていたという
報告を終えた
「私と伊織さんは、被害者たちについての話を聞いてきました」
案内役の
「被害者たちに対する近隣の者たちからの評判は、いずれも悪いものではなく、むしろ世話好きだったという話です。両親を亡くしてから生活が乱れがちに見えた
「ほう、
ヤクモが、不思議そうに呟いた。
「人間は、気の持ちようで、相手に言われたことの受け取り方も変わってしまうからね。都会でうまくいかなかった
陸は、ヤクモの言葉に頷きながら言った。
「
「俺たちが話を聞いた人たちの中にも、
「
山吹が口を挟んだが、彼も、どこか釈然としないところがある様子だ。
「目撃された女性が『怪異』であれば、説明がつくのでは……『普通の人間の目には見えない怪異』もいますし」
おずおずと陸が言うと、一同は頷いた。
「直接、
「あのですね、捜査責任者は私ですから……」
言いかけた伊織は、
「では、作戦の具申をお許しください。私と
「さすがは
結局、伊織は
「
「はい、頑張ります」
「任せるがよい」
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