第9話 今更ながらのチュートリアル
「
陸は戦闘員の
「……知ってはいると思うが、『
手元の冊子や書類を
「俺たちは生身では『怪異』に太刀打ちできないが、『術』と化学技術を融合した『呪化学』で開発した武装を使用して任務にあたっている。海外でも、似た組織を有する国は多い……君も一応『怪戦』の戦力になるということで、簡単にレクチャーしろと言われたが、俺一人に丸投げとは、参ったぜ」
「なんか、すみません」
陸は申し訳ない気持ちになって、思わず首を
「何せ前例のないことだ。上層部も混乱気味らしい」
「あの、来栖さんは、俺のことが嫌じゃないんですか?」
陸が恐る恐る尋ねると、来栖は僅かに首を傾げた。
「そりゃ、初めて君が暴れ回るところを見た時は、驚いたし怖いと思ったさ。だが、その気になれば逃げられたのに、君たちは我々を援護しに来てくれた。それだけでも信用に値すると、俺は思っているよ」
言って、来栖は
信用に値する――今の陸には、最も心に
「あ、ありがとうございます……」
「俺も、君に銃弾を何発も撃ち込んだし、任務だったとはいえ申し訳なかったな」
両目を潤ませている陸を見ながら、来栖が苦笑いした。
「ふむ、来栖と言ったか。貴様、人間にしては、なかなか見どころのある奴である」
突然、どこからともなく響いた若い男の声に、陸は驚いて椅子から転げ落ちそうになった。
「何者だ?!」
立ち上がった来栖が、身構えながら周囲を見回している。
「落ち着くがよい。
その口調から、今喋っているのが「ヤクモ」であると、陸は気付いた。
「『ヤクモ』……? 君、自分の声が出せたのか」
「うむ。音声というのは空気の振動であると気付いて、色々とやってみたらできたのである」
「これなら、一人漫才状態じゃなくなるな。助かったよ、ヤクモ」
状況を把握したのか、来栖も椅子に座り直した。
「なるほど、これなら、我々も『ヤクモ』と直接コンタクトが取れる訳だな」
「常に、陸を介して話すのは手間がかかるからの」
来栖の言葉に、ヤクモが、はははと笑い声をあげた。
と、誰かが部屋の扉を叩く音がした。
来栖が、どうぞと答えると、術師の
「遅くなって、すみません」
軽く頭を下げながら、
「いや、『術師』は数が少ないから忙しいだろう。では、『術師』関連の話は
来栖が、柔らかく微笑みながら言った。
「あの……俺と『ヤクモ』は、
陸は、
「『怪戦』における『使い魔』は、安全性が認められ、術師によって使役される『怪異』を指します。
「そうだ、私の『使い魔』も紹介しておきますね」
そう言った彼女の
よく見ると、毛玉には尖った二つの耳と、ふさふさした尻尾が生えている。
「何です、これ……ちっちゃい狐?」
陸が凝視すると、毛玉も、その青いビーズのような目で、彼を見つめてきた。
「私が子供の頃から一緒にいる『コンちゃん』です。妖狐の一種と言われていますね。普段は隠れていますが、人の言葉を覚えてレコーダーのように再生できるので、誰かに連絡したい時などに手伝ってもらいます」
「うひゃ?!」
ふわふわと顏の周りを飛び回り、匂いを嗅いでくる「コンちゃん」の柔らかな毛の感触に、陸は思わず声を上げた。
「あら、この子は自分から他の人に近付くことなんて滅多にないんですけど……
「こんな可愛い『怪異』もいるんですね」
自分の
「だが、万一、
来栖が、陸と
「そ、それは、そんなことにならないように気を付けます! ヤクモもだぞ」
「分かっておるわ。その娘にも、恩があるようだからな」
陸の言葉に返事をするヤクモの声を聞いて、
「あら、ヤクモも声を出せるようになったんですね」
「
ヤクモの得意気な話しぶりに、陸は、思わずくすりと笑った。
「では、私たち『術師』について説明しますね」
「
「そうですね……」
陸は首を捻った。
「生まれつき『霊力』……って言うんですか? 普通とは違う『力』を持っていて、色々な『術』を使って『怪異』と戦える人たちということくらいですかね」
「
「
来栖が口を挟んだ。
「きのと級? 術師にもランクみたいなのがあるんですね」
陸が言うと、その通りとばかりに
「上から『
「もっとも、術師の大半は『
「
「俺は一尉だからな。
言って、来栖は肩を
「俺や
「私も、もちろん、できる限り力になりますから!」
「ありがとうございます……俺も、頑張ります」
二人の言葉に、陸は胸の中が暖かくなるのを感じた。
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