みさきとマシンガンと女の子(名前はけい)2
テレビでは、ユウホドウというバンドが、曲を披露している。今年デビューの期待の新人らしい。各楽器が、主張し過ぎな気がするが、かっこいいことは、間違いない。
音楽性の話でいうと、昔ながらのブルースロックに、しかしそれを基調としながらも、曲のあちこち、節々でトリッキーなユニゾンが入るなど、開拓しようとする意気込みが感じられる、先に期待のできる、伸びしろを見せつけているのだ。個性的なメンバーもいい。
やはり、ボーカルの花頭の女の子のステージングが、アグレッシブと狂気とロリを絡めたようなスリリングなもので、バンドの顔となる特徴を築き上げていた。
ミュージシャンに言わせれば、一番才能のあるのは、ドラマーだと言った。おかしな着ぐるみをきているが、腕は本物だという、評価だ。他のメンバーの腕も、プロの名に恥じない。ただ、一つだけ問題があった。
さとしが、言った。
「、、、何語?」
使用言語が、日本語でも、英語でもないのである。インタビューでは、いつもアドリブの発声だと、ボーカルは答えているが、そんなはずはない、かっこつけんな、とネットでは、えらく叩かれている。
テレビを見ながら、病人に寄り添うけいは、それと同時に、編み物をしていた。
奈良さとしは、心配した周りをバカにするような、けろっとした顔を浮かべていた。
ニュースでの重体は、言い過ぎだったらしい。ただ、まあ出血は確かにひどかった。骨も折れていない。
ブチハイエナは、動物界屈指の強いアゴの力を持ち、肉食動物では珍しく、骨をそのまま、がりり_捕食、咀嚼、そして消化してしまえるのである。優秀なハンター達は、不名誉なレッテルを張られたままである。
そのハイエナに噛まれたのに、骨に異常がない、というのは、おかしい。
だいたいにして、今回の事件は、いろいろ、おかしい。愉快犯としか、思えない。動物を放ち、街を混乱に陥れるためなら、一気に大量に放てばいい。一匹ずつ。しかも、おどろくほどおとなしく、捕獲されることを、簡単に受け入れるのである。
完璧に調教された、猛獣たちを使った、特定の誰かに対する挑発_こうとしか、考えられなかった。
あほ面で、画面を見るけいは、自身が、この事件の発端のど真ん中にいたことは、まだ知る由もなかった。
-
バスが今、目の前を横切った。兎瓦けいは、さとしの無事を確認すると、ほっとし急に甘いものが欲しくなり、見晴らし公園近くの、駄菓子屋で、怪しい、けれども、これが一番うっめえと主張する<たいすけバー>というお菓子を食っていたのである。バーといっても、アイスではなく、所謂チョコレートバーである。ぺろぺろ、と舐めつつ、ふいに赤くなった。昨日、自分がこの世で一番不幸な人間なんて、悲劇のヒロインぶった自分が恥ずかしくなった、のである。
「にゃーにゃーにゃん」
意味の解らない、幼稚な歌を歌い、恥ずかしさを紛らわせた。あとに、兎瓦けいは、この時すぐに、帰っておくべきだったと後悔することになる。
4時半。
玄関につくと、血がついている。がん、とカバンをふっ飛ばし、キッチンに向かう。
今、庭の窓で何かが動いた。巨大な尻であった。なんだ、あれはと思った瞬間。
「お母さんっ!」
母が倒れている。意識がない。だが、外傷は見つからない。
「うん?」
飛び起きる母。
「け、けい!」
怖かったよ、お母さん、とばかりにけいにとびつくみさき。話し始める。
「! 、、!」
言葉を上手く紡げていない。 まあ、そのぐらい怖かったんだろうなと思ったけいは、はたとよぎるものを感じた。
玄関先の血は、じゃあ誰の_。
その日の夕方である。
ニュースで、再び猛獣が現れた、と伝えた。今回は、とうとう死亡者が出た。兎瓦けいの家のとなり、一軒家に住む老夫婦のうちの、今年80歳になるおじいさんの方である。死因は出血多量。犯人は、
「なにあれ」
見たこともない、動物だった。頭部は、猿のように、凹凸の少ないものだが、歯はするどい。体は、普通にシマシマ模様の虎なので、ある。
そっくり二つの動物をくっつけたとしか、思えない。この異常な肢体を、テレビで確認したけいは、一瞬、さとしのケガも思い出し、だだ、と二階へ上がった。
「おい、花男!」
一人でしゃべるけい。
「どこにいても、たぶん聴こえるべ?わたしの声!」
反応はない。
「、、、」
息を思いっきり吸ったけい。ギターを持つ、真似をするけい。
「求喰柚宇!!!!!恩返しの時間だべ
-
女の子と、カエルを乗せたバスは、道路を走る。
柚宇が生意気な口をきいた。「はっきり言うぜ?おせえ。彼氏噛まれてんのに、なぜそのとき、動きださなかった!おまけになんでおれが、お前の手伝いしなきゃなんねえんだ。お前が思ってるより、おれは忙しいんだ!あ、そういえば、この前の講義料!まだもらってなかったよな? 惑星の秘密教えてやったんだ!570円だぞ?破格だ」
カエルをつまんで、胸の中にいれる、けい。
「まあまあまあ。よく喋る、女装趣味だこと」
柚宇は、思った。
けいは、強くなった。
どっちかしかない、と思った。
彼氏やその類いの、繋がりを捨て去り、こっち側に来るか、もう恩返しを忘れ去り、一生さとしといちゃつくか。極端な物言いだが。
けいは、どちらも見捨てなかった。日常は日常。マシンガンはマシンガン、とケジメをつけたのである。
おそらく、男性の精神力で、達成できる境地ではない。柚宇は、しかし、口からこぼれる意地悪は止まらない。
「兎瓦けい」
「あ?」
「鶏肉食うと、いいらしいぞ」
「は?」
「胸大きくすんの。」
のちに、この世で最も苦しい拷問処刑に会うことになる。しかし、同情をする者は誰もいなかった。
-
もうすぐで、この田んぼ地獄ともおさらば、紫外線ほとばしる夏の海岸、九十九里浜である。けいは、麦わら帽子を部屋から、引っ張り出し、日焼け対策を実施した。
柚宇が言う。ぷ。ゆうがゆう。失敬_。
「おい、兎!」
「どれかっつうと、その呼び方が一番腹が立つな」
「今日は、メガネじゃないのか?」
「ああ。だから?なに、またそっちの常識でなんかあんの!?」
「ねえ」
柚宇は、間を置いた。もうすぐ、砂浜が広がる場所に出るはずだ。
「メガネつけた方が、かわいかったのに」
「え?」
カエルは、聞いてんのか、おい、と赤くなった頭上の頬を、カエルの力で容赦なく叩いた。大した衝撃ではなかった。
-
神岡浄介は、スティーブ&仁美と共に、楽しげにポーカーを満喫していた。
最強の、太陽神は、スティーブ&仁美と共に、楽しげにポーカーを満喫していた。
すべての惑星巫天のリーダーは今、スティーブ&仁美と共に、楽しげにポーカーを満喫していた。
仁美は言った。
「じょうちゃん!今のずる!」
スティーブは言った。
「汚えぜ、神っ」
神岡浄介は、「う~ん」と弱気な声を発した。
-
「おっと」
アイスがこぼれそうになった。水着のけいは、今、夏を満喫している。何かを忘れていると思うが、まあ、いいや雑念を、横から薙ぎ払う。
「うおおおお」
かわいらしくもない、雄たけびを上げて、波に突っ込む彼女。それを、ほほえましそうに、妹を見るように見つめるのは、浴衣の青年である。
「あんさ、絶対おかしいから。脱げよ、それ。自分の裸に自信ないんけ?」
上がって来たけいの体を、舐めるように見る、青年。
柚宇は、答えた。
「64点」
「は?なにが?」
す、と隣りの水着美人を指差す、花男。サングラスを取り、言う。
「89点」
ばし
腹を叩かれた柚宇は、なかなかに鋭い痛みを感じた。しかし、もう一回別の女を指す。
「92点」
いらっときている女子高生に一言付け足す。
「どうすんだ?兎瓦けい。今んところ、お前最下位だぞ」
けいは、ふ、と返す。
「フクロウに潰されて死ね」
時間が経って、海の家で休む。柚宇を見ながら、夏の似合う男だな、と思った。単に、浴衣だから、かもしれねえな、と自分に突っ込みながら。
柚宇が、急にきびしい目を向ける。
「なんだ、あれ」
けいもつられて、沖を見る。「あん? イルカ?」
イルカであった。みんなに大人気、バンドウイルカである。
浜に?
-
辺りは、騒然となっている。いや、怖がっているものはいないようだが、海の家のオーナー塩田ユウスケさんによると、この辺りでイルカがこんな近くまで来るのは、今日が初めてだと言う。それを聞いて、うれしがる皆。だが、おかしな恰好をした、いや、頭をした青年と一人の女子高生だけは、ひたすらに事態の悪化を恐れた。
「柚宇」
「ああ」
何の疎通をしたかは、本人たちのみが、窺い知ることだった。ユウスケさんは言った。
「ギター久しぶりに、弾いてみっかな、こんな日は」
と体格のいい、店長は奥に入って行った。けいは、アイス(二個目)をぶらぶら口でくわえながら、失礼、それを取ったあと、叫んだ。
「えええ!?おっちゃん、ギターなんてできんけ!?」
前より、けいは明るくなったのは気のせいだろうか。今日初めて知る他人である。ひょっとしたら、おっちゃんの人柄かもしれない。
「ふっはは!このおれを誰だと心得る! Fujiyamaボッキ-ズのギターボーカルを務めた、あの塩田様だぜ?嬢ちゃん、一曲聴いてくか?聴くな。聴け、<鉄の太陽>」
けいは、はた、と思った。ギターだ、と思った。だめだ。なぜか、あのぬいぐるみシャチを思い出すと泣きそうになる。き、と柚宇を見た。
<鉄の太陽>は聴いていなかった。
「ねえ、柚宇。マシンガン元気かな」
「そんなかわいい顔すんなよ。食うぞ」
「元気だといいな」
「流すなよ」
ざざん、と風と波が強くなってきていることに、2人はまだ、気付いていなかった。
-
はじめにおかしいと思い始めたのは、柚宇である。さっきまで、居たイルカが、波間から消えたのである。そもそも、来ていたことがおかしいのだから、去るのはおかしくないんでは、と思うかもしれない。だが、消え方がおかしかった。一回潜ったっきり、出てこないのである。30分後も、40分後もである。
けいは、言った。
「は?沖に出ちまったんだべ?」
柚宇は答えた。
「違うな、それなら、何百キロ先だろうと、この求喰柚宇様の耳に届くはずだ。おい、けい。来るぞ」
キョンシーに変化した、柚宇は、皆に逃げるよう促した。ウソをついたのである。けたたましい音量。眞弥をしのぐ。
「聞いて下さい、皆さん!たった今、沖の船から、大型のホオジロザメが近くに来ているとの、警告がありました!至急、大至急、海から上がってください!で浜にいる奴らは、早く家帰れ!」
ふう、とキョンシー人魚は、息を吐いた。
けいは、言った。
「最後の言い方は、まずかったべ、あれ」
知るかよ、と言った柚宇の視界に何かが入った。水面に浮かぶ、イルカの死体。爆発した。原理が解らないが、肉片が飛び散った。サメの仕業だと、思った浜の人々は、にげまどった。どうやら、もう海にいる、人間はいない。それがわかると、柚宇は、ヒレで一目散に海に向かって駆け出した。
実際、サメよりも恐ろしいものに、向かっていったのだった。
けいは、仁王立ちにアイスをくわえ、柚宇の指示を待っていたのだが、青春のように、波に今ぶつかったキョンシーを見届けると、「あたしゃ何すりゃいいんだい?」
柚宇は、力いっぱい叫んだ。
「今すぐ、こっち来い!兎!!!!!!!!!!」
轟音におののきながら、ててて、と駆け出すけい。
「おせええ!もっと早くしろバカ死にてえのか!」
わけがわからないけいは、あと5m先が波の先のところまで、到着しつつ、後ろをつまり、陸を振り返った。声がした。
「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!???????????」
けいはたまげた。
群れである。
「久しぶりだな、求喰柚宇_」
低くにぶい、鉛のような声である。発信源はどうやら、柚宇の飛びこんだ水から。けいは叫んでいた。群れである。砂浜すべてを漆黒にするような、大群。そのすべては、大型哺乳類。
けいは今やっと水に入った。
押し寄せてくる、サイ、トラ、ゾウ、キリン、四本足のオンパレードである。
どこからか、出した浮輪を浮かべたキョンシーは、けいをつまみ上げその上に乗せた。
大群は海に入れず、ひしめきあっている。
数千頭はかたくない。
どの個体も、ある一方向を見定め、動かなくなった。
「絶対海の中に入るなよ?けい」
「はい?はい」と言った。
下から出てきたのは、アフリカゾウである。
「は!??」
泳げたんだ、とけいは脳内で変なものを分泌させた。
柚宇は、けい付き浮輪を片手で操りながら、(まるでけいを扱うための取っ手代わりであるかのように)ゾウの浮上をかわした。
浮ぶゾウの額には、何かいる。
「求喰柚宇、おとなしく死んでくれよ。な?」
札を濡れたまま、口にくわえる柚宇。片手には、けい浮輪。
葉っぱを2枚出す。
けいが叫ぶ。
「ガスト!」
ぐわばと、ゾウを飲み込む。 額に居た黒と白のイルカは直前で、鼻により空中に跳ね飛ばされた。
柚宇は叫んだ。
「ナイスだ!けい!今のはマジで惚れた!」
「いいから!おい、あのイルカ軽すぎねえか? どこまで飛ぶんだべ?」
ばあん、と陸に広がる動物の群れに入ったそのイルカは、もぞもぞとうごめく集団につぶされたように、見えた。
けいははしゃいだ。
「やった、勝った!」
柚宇が言う。
「おれもそんな素直に生きたいわ」
マーメイドキョンシーはかたく、けい浮輪を固定したまま、陸に向かって叫んだ。今回は、負けんとばかりに。
「おう、数万年ぶりだな、セミイルカァっ。」
ずりずりずり、と模様を描くように、大群の中心がうごめいた。再びその中のゾウの額に現れたのは、セミイルカたった一頭である。
けいは言った。
「弱そっ」
目をギンと、光らせたセミイルカは、ゾウの頭部から、もたれかかりながら音を発した。
けいは、その眼光にびくついた。この前のイルカより、なんというか<怖い顔>をしている。
イルカは喋った。
柚宇は、にやあ、と気味が悪い程笑っている。
「ふはははっはははははははははははははははははははははは」
おそらく、イルカから発すられた笑いであった。きれいな音だった。
「なんだ、あいつ」
けいは、勇敢だった。
笑い声を合図に、陸で変化が起こった。一頭また一頭と、着水を始めている。だが、所詮陸上の動物である。水の中では、にぶ_
柚宇は、興奮を押し留められない様子だ。けいに、言った。
「ああああ興奮して来たぜ、けい、お前しか周りにメスいねえから、キスしていいか?」
「は?」
有無をいわさず、けいを引き寄せる柚宇。
女に口でキスされ、複雑な兎瓦けい。
「動物か、お、おめごっほ!」
水を口に入れてしまった。
けいは、異変に気付いた。何か、見たことのない動物が、群れの裏側から徐々にこちらに近付き始めていた。
両性哺乳類。そう名付けるのが、正しそうな、四肢すべてが、水かきの猿がその巨大な体をこっちに照準を合わせて来たのである。
けいは、言った。
「はや!」
見ると、猿の顔が何十個も、こっちに向かってくるではないか。
猿達は口を開けた。サメの歯が移植されたように並んでいる。
セミイルカは叫んだ。
「人間は賢いなあ、兎瓦けいよ!」
今、キョンシーは尾びれを使い、けい浮輪を片手に、追ってくる猿たちから、じぐざぐに、避難する。
構わず続けるイルカ。か弱く、美しいラインは、背びれの全くない背中の美しさを際立たせている。背が美しいイルカ。背美海豚<せみいるか>である。
叫びは、おさまらない。
猿の歯が、キョンシーの尾びれの先端をもいだ。悲痛な声を上げる、柚宇。
「おい、だいじか、花男!」「ああ」
柚宇は、ぐるりとイルカに目を合わせて言った。
「楽しいな、HATSUKA(ハツカ)~」
この海豚<いるか>、陸上を闊歩する全ての、哺乳類を操作する存在、、、調教師 JETTOES分類Hyatt reagency種類クラウン。
イルカは言った。
「これが調教だ、イシアガン」
名は、HATSUKAという。
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