ニシンの大群とマシンガンと女の子2

「そうだったな、坂口!」

「!!!ぇ」

 きょろきょろと、辺りを見回す浄介。授業中だった。しまった、と口で無音により、唱えた。睨みを利かせてくる、数学の教師。

「そうだったな!?」

「な、、、なにが、、ですか?」

 ちらほら、笑い声が後ろの方の席で、起こっている。

「集中力という言葉があるな」

 教師は長い話を、始めようとしていた。

「あれは、長時間持続しないそうだ。 我々人間も動物だ。限度がある、だがな坂口」

「はい」

「ある、限られた時間でなら、持てる能力を発揮できるのだ、えー若い頃は、よってだな、!おい」

「時間!」

 時間、と叫び、たたた、と授業中だというのに、クラスを出ていく、浄介。あっけに取られるクラスメイトと、教師。

「こら!坂口!お前、トイレならちゃんとそう!」

 まだ、近くにいた浄介から返事が、大声で在った。

「ありがとう! 先生」

 教師は、皆に笑われてしまった。

 今度は、時間という単語を連続に発しながら、3Fの図書室へと駆け上がった。係の人に、殴らんばかりに、質問を浴びせる。

「あの!時間に関しての本って置いてませんか??」

 え、と言う係の人は、返事を開始しようとするが、言う直前ではばかられる。

「なん!なんでもいいんで!!」

 困った、窓の向こうの、図書委員。

「、、、え、どういうことですか?時計の種類の本?」

「違います」

 6秒後、彼は笑われることになる。

「例えば、、! タイムマシーンに関するものとか!!!!」

 -

「兎」

 柚宇は、けいに話しかけると、あることに気付いた。けいは寝ていた。木の上で、巨大な葉っぱに身を預けるように、それはもう気持ち良さそうであった。

「、、、」

 柚宇は、難しい顔をした。

「どのくらい話せば、いいんかね、マウヅ~」

 見えないマシンガンに、助けを求めるように、見えた。

「悪いけど、はい、この乗り物乗ってください、はい、乗りましたはーーーい、着きました元の、地球でーすおかえりなさいってわけには、いかねえからな?」

 昨日、マシンガン達と話し込んだ、浜辺に来ていた。もう、明るい。体の節々が痛い、と顔に書いてあるけいは、うーん、と言った。まだ、寝ぼけていた。

「兎瓦!お前には、やってもらうことがある」

「、、、う、はい。はい」

 駄目だこりゃ、の結晶だった。兎瓦けいのことである。

「お前、やる気ねえんだったら、おれもう帰るぞ?」

「ああ、すいませんごめん、女装趣味の、きっかけ聞いてやるから、真面目にやるからよ!?」

「真顔で言うのが、腹に立つな」

 がりっと、求喰柚宇は、手に持っていたりんごを、もう一方の手で、えぐった。

「はじめっぞ? DRUG。ETIAGXN!時代跨ぎを、な」

-


 ぺらぺらと、もう20冊目に突入している坂口浄介は、テスト勉強でも、これほど集中力を持続させて、読書に励んだことは、なかった。

「ちがう。ちがう」

 本は、主に、宗教関連、または哲学が主であった。心配になって、近くのクラスメイトが、浄介に声をかけた。

「坂口ー。お前、目、血走ってっぞ、休めよ、少し」

 浄介には、全く聞こえない。

 -

 両腕に、何かの植物の、花びらを持たされたけいは、これから、踊りでもさせられるんだろうか、と思った。

「わかると思うけど、わたし、あんま色気とか、ねえよ?」

「、、、。言われたことをしろ」

 無視をされた、けいは、とりあえず二枚を眼前で、発する声とともに、一つに重ねた。柚宇は、言った。

「おい、やる気ねえなら、おれは帰るって言ったよな?」

 だんだん、慣れない指導にイライラしている様子が、手に取るようにわかる花男のトーンだった。

「だってぇ!意味わかんねえもん、こんなことして何になるんだい?」

「、、、。言われたことをしろ」

 怖い人がいる、と小声でけいは愚痴った。

 一瞬、吐き気がした。血だった。脳内に血の映像が、駆け巡った。ほぼ、無意識で、自身の両腕に導かれるように、けいは、言葉を発した。柚宇は、にやりと笑った。

「、、、ガス」

 花びらは、二枚から、四枚に、増えた。

「、、、ト!」

 言われた言葉を、ゆっくり発音したけいは、豪快に後ろ向きに倒れた。頭からいった。柚宇は、しまったと思った。抱きとめるトコロだ、と思った。砂浜だったので、外傷はおそらくないだろう、と踏んだ。

-

 坂口浄介は、図書室を出て、帰ろうとしていた。まだ昼食が終わる手前、全く下校時刻はほど遠かったが、彼の中の危機感が、罪悪感を完璧に打ち消した。誰に、何も言わず、校舎を出て、校庭を抜ける。

 奈良がいた。坂口は、わたしたちは終わったのよ、と言わんばかりに露骨に無視をした。奈良は、坂口を呼びとめた。

「おい、、、!おれも悪かったよ、坂口!」

 それでもやはり待っていた言葉だったらしい_坂口は振り向いて、奈良に告げた。

「ちょっと、お前も学校サボるべ!話がある」

「おう」

 奈良は応えた。

-

 仁美は、黙ってしまった。シャチのことを、教えてやると、のろしを上げたものの、その知識の、一切は、この目の前の、宙に浮いて、言葉を話す<ねくた>と名乗るシャチの存在を肯定することには、ならない。スティーブは、バナナを食べ始めた。

 -

 奈良は、真剣な眼差しで、坂口の話を聞いた。そして、真剣に感想を漏らした。

「お前。疲れてるよ。坂口」

 同情だった。それは、もう鋼の同情である。全然、坂口の話を、信じようとはしない。坂口は、イイ歳をして、テーブル真下に転がり落ち、手をバタバタさせ、ダッテホントウナンダモン、と叫び散らし気持ち、そんな自分を想像することで、忙しくなった。

「信じてくれよ、奈良」

 奈良は、真剣に同情を、継続中だ。ある意味、一番、ひどい。

「仮に、、、」

 奈良は、言葉を滑らせた。坂口は、狼のような目をしている。ので、一瞬、言葉を切って目を反らせた。

「仮に、けいじゃなかったと、、、。 、、してだな。本物は、じゃあ今どこにいんだ?」

 にやり、と笑って、坂口は奈良に本を出した。おそらく、学校の図書室から、持ちだしたものでは、なく元から家にあったものを持ってきたのだろう。奈良は、手に取って、すぐテーブルに置いた。この安いカフェでは、現在、周りの客層は主婦様方一色である。

「疲れてるって、お前、頭冷やせ。っていうか、はっきり言って、けい、、、。おれの彼女に手出すのは、もう勘弁してくれ_」

「本、いいから読んでくれ。そこのしおり取って」

 勇気を出して言った言葉を、流された奈良は、イラっとしながら、本を開いた。本のタイトルは、<世界の神々>である。本当に、古そうだ。奈良は、が、目を見開いた。

「?」

 しおりが、挟んであったページ、視界の右端に飛び込んでくるその章のタイトルが、あった。<惑星守護色期巫天(ワクセイシュゴシキゴミテン)> 奈良は、そのとなりに載ってある字に、驚いたのである。<ケイ>_そしてイメージ画が、添えてある。兎瓦けいには、似ても似つかなかった。むしろ、ヒトの姿をしていない。庭などで見る、身近な昆虫。アリの、姿である。奈良は顔をしかめた。

「ある意味似てんな、けいに。無駄に、働くとことかよ!?」

「ちゃんと、読んでくれたか?」

 奈良は目をページに戻した。短く説明が載ってある。どんな、神様なんだろう、と思った。<炭素が巻き起こす、全ての超自然的現象の象徴 または単に、炭素そのもの>

「おれ、化学苦手なんだよなあ」

 坂口は、答えた。

「おれもだ」

 しん、と静まり返る、両者の間に流れる空気。お互いが、相手の次の言葉を待った。

-

 眞弥は、ダイソーに居た。眞弥は、ダイソーを気に入った。いちいち感嘆しながら、店内を巡っている様子である。連れてきた甲斐があった、とちなつはまさに母親のような気分だった。年齢は近いはずだが、と自分に突っ込んだ。

「全部、安いから。ここは。そんなお金ないんだったら、いろいろ買い物、適当にここで済ませておくのありかもよ?」

 ちなつは、得意気に言った。

「うん!」

 気持ちいい程の返事を、眞弥は繰り出した。ちなつは足を止めた。知人の姿を目撃したのだ。それは、このダイソーとなりの<SHELL WORKS>というカフェである。やはり、そうだ、と思った。奈良さとしである。隣りも知っている。むしろ、坂口のことの方が、よく知っていた。

「ちーっす。何してんの?男2人で、デート?」

 おれらは、忙しいんだとばかりに、睨みを利かす坂口。奈良が応える。

「よう。なんか、こいつがヒトの彼女寝獲りやがってよ、その説教してんだって」

「はぁああ!?最低、ちょっとあたしのけいに手出さないでよっ」

 坂口は無視を、技として極めようとした。本を手に取る。

-

 眞弥は、消えていた。

「、、、?あれ」

 そう話し込んでいたわけでは、なかったし、まだまだ、一人で、物色し続ける、と踏んでいたのに、である。ちなつは、慌てた。

「あれれ?すねちゃった?あの子」

 どこを探しても、見当たらないのだ。

-

 激しく、あらゆる生物を拒むように、吹きつける風の中に、漁師の乗ったその船は、あった。なかなか進まないが、自分の経験に圧倒的な自信を持つ、その漁師は、屁とも思っていなかった。思い浮かべるのは、家族の顔である。自分のひげを、さすりながら、青い目をぎらつかせ、数時間おきの、これからの自分を想像する。問題ない、と自分でうなずく。漁師は船の上で、一人だった。その時である。波を割る、大群があった。ニシンである。はて、と漁師は思った。この海域で、ニシンが現れるのは、11月頃のはず。漁師はマイケルと言った。マイケルは、おかしいと思った。

 尾びれだった。そのニシンを空気中へと、一気に、何十匹も跳ね飛ばしたのは、一頭の鯨類の尾びれだったのである。

「おかしいな」

 漁師は、疑問に思った。ニシンの群れを、単体のシャチが襲うわけは、ない。

 通常は、何頭もの群れで、ニシンを囲い、ボール状にしたそれらを一匹、または数匹ずつ尾びれで打って、気絶させながら、効率的に捕食するのだ。でないと、体重の5%もの質量のエサを、毎日捕食するシャチの食生活をまかなえない。

 声がした。甲板に出る漁師。ヒトなど、水面を歩いているわけはない。どこからしたのだ。目をぐるぐる、と注意の塊のようにしていると、もう一度声があった。

 再び水面が割れた。シャチの顔だった。シャチの耳から、一本のワカメが垂れ下っていた。漁師は、そんなシャチを初めてみた。

 こいつの声だ、と瞬時に思った。What a shit... bet my conscious’ pretty much stuck...しかし、そんなことはあり得ない、と自分を説得した。そのとき、閃光とともに、船は大破した。マイケルは、自分の一生を思いだし、娘の顔を思い浮かべた。それが、彼の最後の記憶だった。

 シャチは、体をひるがえすと、近くの陸へと向かって行った。

-

「さとざくら?」

 ちなつは、電話越しに、眞弥へと説明を求めた。黙ったままの眞弥。

「まやちゃん?その君の友人が遊びに来てるの?だから、さっき帰っちゃったの?ねえ」

「、、、、。そう」

 ぷつ、と電話を切られてしまった。一体、なんなんだろう、とちなつは腑に落ちない様子だった。

「どうした?」

 奈良は聞いた。気付けば、3人で同じテーブルを囲み、ティータイムだった。

「いや。うん。ごめん、あたし帰る」

「そう」

「じゃあね」

「おう」

 ちなつは、嫌な予感がした。スタバにて、眞弥に聞いた話で、聞いた名だったのだ。<さとざくら>とは。すべては思い出せなかったが、けいのことが心配で心配で仕方なかった。

-

 眞弥は、アパートの自分の一室にて、目をつぶり、叫んだ。轟音だった。奥には、The Rolling Stonesの曲のような旋律が聞こえた。

<<3人の月に命ずる。 この時代「チキュウガエシ」にさとざくらが現れた! 至急、わたしのところへ来なさい!>>

 おそらくだが____。このアパートを出て、300m先にある公園で遊んでいた、子供にも聞きとれた。そんな音量である。

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