第14話 お使い! 鉄パイプ女!!
《前回のあらすじ》 ゴースト女、出没
その!畳の上に小さな膝を折り曲げて、まるで和人形の音頭を踏むようにモグモグと口を動かす女の子について!
本人曰く、名をゴースト女と言うらしい。眉の辺りでマジメに揃えられた前髪から、子供にしては理知的な、キッチリした印象を受ける。仮にお年玉で1000円ぽっち渡したとしても、文句ひとつ言わずに帳簿をつけてそうな具合だ。横髪、後ろ髪。同じく、整えられている。また、漆喰を塗ったように黒かった。
「で、誰なんだよテメェは」
コイツぁお年玉をもらった子供に金の工面を求めてそうな女だ。そのうち親戚の集まりさえ出禁になるだろう。ともかく、鉄パイプ女は箸でゴースト女を指すと、眉をひそめながらお椀をすすった。
「…」
ゴースト女は、何も言わない。黙ってお椀につがれた具材をツツいている。
「おい! 自己紹介も出来ねぇのか最近のガキャ!」
「うるさい」
「あん!?」
2人の問答を聞きながら、アサシン男は目の端っこでゴースト女を観察していた。
『本人の言う通り、10才くらいが相場か。しかし』
容姿については冒頭の通りだが、仕草についてもキッチリした印象を受ける。身なり、箸の持ち方、座り方。食べる前に「いただきます」 とさえ呟いていた。同年代の子と比較してみても、これほど利口な子は見当たりはすまい。ただし、もしゴースト女の言っていたことが本当だとしたら、同年代の子と比較するのは ちょっぴしズルい感じもする。
『享年10才…だが、さっきの腕はどう考えても』
「ごちそうさまでした」
その時。ゴースト女がお椀を置き、箸を乗せた。
「あー? もういいのかよ」 鍋にはまだ、汁の湖面と、白菜が浸かっている。しかし、ゴースト女は首を振るうと、「あんまり、お腹すいてない」 と目を伏した。
「バカ。すいて食うんじゃ遅いんだぞ。すかない内に食っとけ」
「ううん。いらない」
「だーかーらー」
「わたし。もう、なにも食べなくていいの」
「…死んでるからか?」
アサシン男が口を挟む。ゴースト女は夜の月じみて悠然としたまま、自分の置いたお椀の中を眺めた。
「そう。死んでるから」
「死んでるったってなぁ。お腹くらいすくだろ」
「その話はいい。そんなことよりも、死んだ人間がココにいるってことの方がヤバいだろ」
「そりゃ、確かに。つっても、能力だろ? どーせ」
鉄パイプ女は鍋から具材をよそうと、またムニャムニャと口にかき込み始めた。
「色々言いてぇことはある。けど、正直なんつっていいか分からねぇから、言いたいことだけ話すぞ」
目線を、牢の外にやった!
「ここにいるトルネード女って奴がな。俺の鉄パイプを持ってんだ。そいつをココに持ってきてくんねぇか?」
勝手!! 見ず知らずの子供を相手に、お使いへと走らせる暴挙!!
アサシン男は閉口し、ゴースト女は無表情のまま少し考えた…すると、
「いいよ。ただし」
ゴースト女は立ち上がると、アサシン男をかすめるように見た。
「終わったら、オジサンを借して」
「オーケー、分かった」
「ん? おい待て。今なんて」
「さぁ! 行った行った!」
まるでマーチでも鳴らすように、鉄パイプ女はお椀を箸で叩く。と、ゴースト女は体をみるみる薄めていき、そのうち完全に後ろの景色を透かした。
・・・・・・・・・
午後も夕暮れ、日の沈むころ。路地には飾り付けのないフェスティバルじみて、浮足立った面持ちのリーマンやOLたちが歩いている。今日は金曜日。そりゃあ多少の浮遊感は生えて出たっておかしくない。
「タンヤオビール、名にハジない旨さだよ~」 その横を、ビールの屋台売りが通って行く。今ドキ珍しい古風なリアカーを引いて、誘惑的なブラウンのビンをちゃかちゃか鳴らしている。コンクリの凸凹を車輪の踏むにつれて、ビンの中の液体が泡を立てた。
その様子を、アパートの二階から見下ろす女がいた。窓辺に肘をついて、晴天の夕空に向けて煙を吐いている。まるで雲を作っているようだ。指にはタバコを持っていて、じりじりと短くしていた。
「鉄パイプ女、大丈夫かしらねぇ」
不安。を、口に出した舌を慰めるように、タバコを咥える。「ビールどうですか~」「すいません、一本くださーい」 屋台に、客が行っているのが見えた。
「あれがヤンキー女か」
その屋台の裏。ブロック塀の影から、男が覗いている!
「鉄パイプ女の同居人…くッ、ジュエリー男さん。どうして俺に見張り何か…」
おや、誰かと思えばチェーン男じゃないか。ホラあの、ギガロドンバイトにいた鉄パイプ女にガンつけてた奴。ガタイのいい体を押し込めるようにスーツを着て、おそらく隠密用と思われるサングラスを掛けていた。「あ、お兄さんビールどうすか?」「話しかけるんじゃネェ!」 売り子は頬を膨らまし、せっせとリアカーを転がしていった。
「ふぅん。鉄パイプ女、頑張ってるみたいじゃない」
ヤンキー女は空を眺めながらも、チェーン男の方に気を向けて思った。
『ココに見張りが付くってことは、そういうことでしょ?』
チェーン男から見えてない片側の口角を上げ、畳に落ちていた新聞紙を手に取る。と、その紙面をゆるやかに撫でた。そういうのが好きな動物なら一瞬で横たえるほど艶やかな手つきだ。気のせいか、新聞も赤面している。
「まったく、どうなることかしら」
チェーン男の見上げる最中、ヤンキー女は一層重く、頬杖に頭を預けた。
狂宴!鉄パイプ女!!(キャラクタリスティック) ポロポロ五月雨 @PURUPURUCHAGAMA
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