第45話 死神の契約者
「塁君、少しこちらに来てくれ」
主任ケアマネージャーが呼ぶ声に、塁は軽く頭を下げてその元へと向かう。彼の手には、日々の介護記録がぎっしりと詰まったファイルが握られている。
「これ、あなたの記録だけど、うちのスタッフと比べて能力が劣るみたいね」主任が薄い笑みを浮かべながら言った。「それに、大学出てるからって、やる気が見えないんじゃないの?高卒のほうがよっぽど働き者よ」
塁はその言葉に言葉を失った。大卒の自分が、高卒扱いされ、評価もされない。それどころか、上司の過失を被せられ、介護事故の責任を問われる始末だ。彼の心の中で、理想と現実が交錯し、次第に疲弊していった。
その日、塁は思い切って帰宅途中に立ち寄った古びた書店で、ひとつの本を手に取った。タイトルは『死神の契約者』。内容は、死者の世界と生者の世界を繋ぐ力を持つ存在が、困窮した人間に力を与えるというものだった。
塁はその本を半信半疑で読み進めた。結局、その話の中で死神が語った言葉に、塁は引き寄せられた。
「力が欲しいか?」
その瞬間、塁はまるで目の前に死神が現れたかのように感じた。声は心の中に響いていた。
「もしお前が真の力を求めるのであれば、その代償として、誰かの命を犠牲にしなければならない。しかし、その力を得た先に、望むものが待っているだろう」
塁は迷った。しかし、介護の仕事を続ける限り、彼はこの腐敗したシステムから逃れることはできないと感じていた。心の中で何かが決まり、彼は死神の提案を受け入れた。
---
その夜、塁は死神と再び出会った。異世界のような薄暗い場所で、黒いローブを纏った死神が立っている。
「契約の代償は覚悟しているな?」
死神の声は冷たく響く。
「覚悟している」塁は決意を込めて答えた。
「ならば、力を授けよう。しかし、お前はその力を使う度に、何かを奪うことになる。それが命であれ、心であれ、どこかに代償が発生する」
死神が手をかざすと、塁の体が震えた。彼の中に、異常な力が流れ込んでくるのを感じた。次の瞬間、彼は暗闇の中で何かを見た。巨大な、異形のモンスターが立ちはだかっている。それはまるでバイオハザードのボスキャラのような姿をしていた。
「これが最初の試練だ」と死神が言った。「倒せ。その力を証明するのだ」
塁は立ち上がり、手にした刃のような武器—闇の剣を握りしめた。彼は心の中で覚悟を決め、そのモンスターに向かって突撃した。
戦いは壮絶だった。モンスターは巨大で、塁の攻撃を簡単に弾き返す。しかし、塁はただの介護士ではない。新たに与えられた力を振るうことで、ついにはモンスターを打倒することができた。
「これで、力を得た証明だ」
死神が語りかけると、塁は無意識にその言葉を受け入れていた。しかし、すぐに彼の目の前に現れたのは、またもや異形のモンスターではなく、彼が介護していた患者の一人だった。目の前で転倒し、命を落としたはずのその老人が、今や恐ろしい怪物のように変わり果てていた。
「代償を払え」
その瞬間、塁は震えながらも、力を使ってその老人を殺さざるを得なかった。
---
モンスターを倒す度に、塁は人々を殺していくこととなる。最初はその理由を正当化していた。だが、次第にその罪の重さが彼の心を圧し、次第に冷徹な殺人者へと変貌していく。
ある日、塁はかつての介護施設で再び試練を受けることとなった。死神からの指示で、施設内のボスキャラモンスター—それは今まで塁が愛してきた利用者の姿を模した怪物だった—を倒さなければならなかった。
「どうして…」塁は心の中で叫びながらも、闇の剣を握りしめる。
戦いの中、彼はついにそのモンスターを倒し、悲しみに満ちた目で崩れ落ちる。だが、その後、彼が受け取ったのは更なる命の奪い合いだった。
「塁よ、これが試練だ。だが、恐れることはない。すべてはお前が選んだ道だ」
死神の言葉が響く中、塁は最後に覚悟を決めた。
---
塁は、最後の試練に挑んだ。その結果、全てを失うこととなる。彼が殺したもの、奪った命、そして最も大切だったもの—それら全てを背負って、彼は自らの運命と向き合うことになる。
「次は、何を選ぶ?」
死神の問いに、塁は答える。
「自分を赦すために、すべてを背負って進む」
塁はその言葉を胸に、死神との契約を破棄する決意を固める。全てを取り戻すために、彼は戦い続けるのだ。
---
塁はすべてを犠牲にし、戦い続ける。その先に待つのは、終わりなき試練か、それとも解放か。闇の剣を握りしめ、彼は再び歩みを進める。彼の旅路は、まだ終わらない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます