第25話 看護師しかつかわない言葉の世界
看護師たち4人が居酒屋のテーブルを囲み、ジョッキを掲げて乾杯した後、彩香が話を切り出した。
「ねえ、私たちが使う言葉って、普通の人にとってはめっちゃ意味不明だったり、誤解されたりしない?」
美里が笑いながら頷く。
「それ、わかる!今日も患者さんの家族に『申し送り』の話したら、『何を送るんですか?』って本気で聞かれた。」
恵がジョッキを置きながら付け加えた。
「それな。『送る』って、看護師の世界では完全に『申し送り』の略語だもんね。一般的には手紙とか荷物を送るって意味じゃん。」
彩香が笑いながら手を挙げた。
「この間、後輩に『次の勤務の人にちゃんと送ってね』って言ったら、ガチで『何を送るんですか?』って聞かれたよ。ちょっとびっくりしたけど、後から考えたら私たちのほうが特殊だったわ。」
翔太が冷静に口を挟む。
「でもさ、看護師の『送る』って便利だよな。『申し送り』って長いし。新人のときは『送る?何を?』って混乱したけど。」
「そうそう。患者さんの情報を次のシフトに引き継ぐだけなのに、『送る』って表現、簡潔すぎて逆に分かりづらいよね。」美里も笑いながら同意した。
恵がふと思い出したように言った。
「そういえば、私たちの『目だけ貸して』って言葉も、普通の人には通じないよね。」
彩香が爆笑しながら頷く。
「それな!新人の頃、先輩に『ちょっと目だけ貸して』って言われて、え、目を貸すってどういうこと?って真剣に悩んだ!」
翔太が吹き出しながら話す。
「俺も最初わけわかんなかったよ。目をどう貸すのかと思って。普通に考えたら目は貸せないだろ。」
美里が説明するように続けた。
「看護師の『目だけ貸して』って、ただ薬とか処置の確認をしてほしいって意味だよね。例えば、『これ、〇〇さんの薬で合ってるか見てほしい』とか。」
恵が苦笑しながら言った。
「でも、言葉だけ聞いたら完全に意味不明だよね。普通の人には、映画とかドラマで出てくる謎の隠語みたいに聞こえるんじゃない?」
彩香がジョッキを掲げて笑う。
「それならいっそ、もっと謎めいた感じで『目だけ貸して』って言ってみようかな。きっと後輩が怯えるわ。」
「やめとけ!」と翔太が突っ込み、全員が笑い声を上げた。
「でも、一番ヤバいのって『マンコウ』じゃない?」と彩香が爆弾発言をする。
翔太が思わずビールを吹き出しそうになる。
「ちょっと待て、それって完全にアウトなやつだろ!」
美里が苦笑しながら説明を始めた。
「いやいや、看護師の世界では『マンコウ』は『慢性硬膜下血腫』の略だって知ってるでしょ。」
恵が深く頷く。
「そう。頭の外傷で血が溜まるやつね。医療用語としては普通なんだけど、一般の人が聞いたら完全に誤解するよね。」
彩香が手を挙げて笑いながら話す。
「この間、同僚と外で『マンコウの患者さん、治療どうする?』って普通に話してたら、隣の席の人が振り向いてきて、すっごい顔でこっちを見てたの!」
翔太が頭を抱えながら言った。
「それはダメだろ…。いや、俺も分かるけど、一般の人にとって『マンコウ』は完全にNGワードだよな。」
美里が笑いながらフォローする。
「でも、医療現場では普通に飛び交う言葉だからなあ。しかも略さないと時間がないし。」
恵が真剣な顔で締めくくる。
「結論として、医療用語は人前で使う場所を考えなきゃダメよね。」
彩香が大きな声で言った。
「いやー、看護師用語ってほんと独特だよね。でも、それがまた面白いところ!」
美里が乾杯の音頭を取る。
「じゃあ、看護師用語の奥深さに乾杯!」
全員がグラスを掲げて、笑い声が居酒屋に響き渡った。
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