第2話 きみがため
「せんせー!おそーい!!!」
自分なりに急いだつもりではいたが時計を見たら雛が教室を出てから10分ほど経っていた。
「ごめんな、色んな人に呼び止められちゃって。」
「せんせーは私より他の人のこと優先なんだ〜。へぇ〜。」
「悪かったって。お詫びになんか奢るから。」
「えぇ〜!いいの?!」
やはり今の物価高なご時世的にお金で解決が1番手っ取り早く問題を解決できる。ちょろいもんだ。
「そいえばせんせー?ここら辺有香が事故った場所だよね?」
「言葉遣い。そういうことはしっかりとした言葉遣いで話せ。」
少し強めな口調で俺は言い放つ。
「はぁ〜い。」
雛も俺の声色で『これ以上踏み込むな』という意思が汲み取れたのだろう。こういう一面があるのが皆から好かれる理由なのだろう。
まあ俺も事故の件が不謹慎だから触れないようにした訳ではない。俺自身が有香本人からも両親からも何も聞かされてない。だから深掘りされたら傷つくし困るのだ。
「あ、着いたよせんせー!」
「そこのか?ずいぶん豪華に見えるけど。」
「これが最近のカラオケなんだよ!先生若いのに流行りには疎いんだー」
見た目だけみたら高級なリゾートホテルのようなものだった。
「受付はこちらです。」
「16時から予約していた姫乃です!」
「2時間パックでご予約の2名さまですよね。お待ちしておりました。205号室です。」
「はーい!ほら、せんせー!いくよ!」
細長い指に力を込め、俺の手を掴む。異性に手を握られるなんて何年振りだろう。イケナイと分かっていながら少しドギマギしてしまう。そんなこともお構いなしに雛はどんどんと進む。これじゃ俺は駄々をこねている赤ちゃんのようだ。
「わかったから!とりあえず手を離せって。」
「えぇー!先生の手ちょうどいいくらいのあったかさだから離したくない!」
そんなこと言われても、こんなところを生徒に見られたらたまったもんじゃない。
俺は手を引き剥がす。
「せんせー!だめ!」
「うちの高校の生徒に見られたらどうするんだよ!」
「責任取るからね♡」
「うるさい。」
「ほらせんせー!部屋着いたよ!」
「トイレ行くから先に入っててくれ」
「はーい!」
俺が部屋に入ろうとした時、嫌な視線を感じた。だが、気にせず今は楽しむことにした。
君と彼岸花。 @Tukuyomi100801
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