君と彼岸花。

@Tukuyomi100801

第1話 ゆめうつつ

高嶺の花があれば、誰にでも手が届く花もある。

誰にでも手が届く花があれば、誰も見向きもしない花もある。

毒があったり、見た目が汚かったり。


人に踏まれて跡形も無くなったり。



県立恵比寿高校に務める俺こと柊怜はこの高校の2-C組の担任を任されている。夏休みが終わり、ここから色々なイベントや受験に向けて生徒を引っ張っていかないといけない責任が重くのしかかって胃痛が止まらない。俺の持っているクラスの話に変わるが、俺のクラスは他の学校と同じようにカーストという制度がある。例えばこいつ。竹上秋吉は高二であるにも関わらず青春を満喫する気もない。ふと休み時間に教室を覗いても机の上の自分の参考書と睨めっこ。俺としては嬉しい部分ではあるが、今の高二の時遊ばないと後悔するぞとも思う。

「せんせー!今日もかっこいい!」

そう言って飛びついて来たのは姫乃雛。こいつはさっきの秋吉とは正反対。勉強のべの字もない、今が楽しければそれで良いと考える人間だ。また人との距離も異常に近い。異性にボディタッチなんて、そりゃ変な噂されるわけだ。

「せんせーは今日いつ帰るのー?」

「うーん、やる事あんまり残ってないし今日は16時とかかな?」

「じゃあせんせーも私たちと一緒にカラオケ行こ!約束ね!じゃあ移動教室だからまた帰りのホームルームで!」

「あ、おい!ちょっと待て!」

いつもこうだ。現役高二女子に遊びに誘われることなんてなかなか無いから嫌かと言われたらそうでもない。ただ、教員と生徒という関係が理性を働かせる。まあ今日は仕事もないし、1度行って俺がプライベートは面白くないと思わせればもう誘われることもないだろう。とりあえず少し残った雑務を終わらせておこう。


「えー、以上で今日の連絡事項は終わりかな。なにか質問とかある人いる?」

「先生ー!今日はあいつにプリント届け行かなくていいんですか?」

「おぉー、そうだな。教えてくれてありがとう。じゃあこれを優斗、お願いできるか?」

「俺ぇ〜?!しゃーないすね、貸し一ですからね!」

「分かった分かった。ありがとう。」

ここでのあいつとは、中野有香という生徒だ。成績良好、品行方正。The・優等生の生徒だが、不幸にも先週交通事故に巻き込まれ入院しているのだ。神のイタズラなのか、天罰ならもっと他に下すやつが居ただろう。

「起立ー!気をつけ!礼!」

「さよならー」

挨拶が終わって掃除をしていると案の定雛が声を掛けてきた。

「せんせー?早く行こ!」

「分かった行ってやるから!掃除だけやらせてくれ。」

「えー?!早くしないとカラオケ混んじゃう!!」

「電話で予約しとけよ」

「いやいやあと10分後とかに行くのに?てか、せんせーが掃除することないじゃん!」

そう言って俺の箒を奪い取り、掃除用具入れに戻した。

「はぁー。じゃあ支度してくるから。職員玄関前で待ってて。」

「やったー!せんせー優しい!大好き!」

そう言って教室から飛び出していった。振り回されっぱなしだ。

「じゃあ秋吉、適当なタイミングで掃除終わっていいからな!」

「あ、はい。」

俺は教室を出ようとした。その時秋吉が俺に

「そういえば登下校の道にコンビニあるじゃないですか。あそこの近くですよね。有香が車に跳ねられたとこ。」

「あぁー?そうなのか?先生有香からも両親からも何も聞かされてないんだよー。先生を心配させたくないって。信用されてないからかもだけど。で、それがどうかしたか?」

「あ、いえ。知らなかったならなんでもないです。」

「お、おう。そうか。じゃあ掃除よろしくな。」

俺は不審に思いながら、荷物を持ち職員玄関へ向かった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る