源遊会の発足

 さきほど、理事に『三日以内』と約束を取り付けたが、あれは別に追加の仕事を回避するために告げた発言ではない。『組織を作る』という一連の作業は一朝一夕にできることではないことは、身に沁みてよく理解していたからだ。


 その一例として、銀堂家での組織編成の様子を挙げよう。最初にぶち当たる壁は、『誰がリーダーをするか』で、それだけで言葉の鍔迫り合いがはじまる。


 家の人間の我が強いってこともあるが、人というものは、誰かの上に立ちたい性分があって、大抵は自分の意見を通してもらうために高い地位を求める。そのため仮に多数決でリーダーが決まったとしても、その予定調和か、宿命か、一人でも不服な者がいれば、組織、集団の人心は簡単に乱れてしまう。そうならないためにも、初期段階でしっかり納得がいくリーダーを選定し、ある程度の強制感を働かせる必要性がある。

 

 通常、この時点で数日ほど潰れてしまうのだが、そこは管理者である自分の権限で意見を丸め込んで、何とかする予定だからそんなに危惧はしてない。


 しかし、課題はまだまだある。


 次に当たるのは、組織内での『役割分担』だ。また銀堂家での話を挙げるが、ここではじまるのは誰がやるやらないの押し問答だ。面倒くさいのが、いくら適材適所でもその作業に文句があれば、これもまた組織の瓦解を招く。必ずも適所とやりたいことが一致することはない。むしろ、一致するほうが珍しいことだ。


 長引けば、強制的に割り振るが、できれば個人の組織に合わせる可塑性は信じたいところ。けど、逆にその可塑性(成長)のせいで別の適性が出てしまう場合もあるから采配が決まった後も様子を見ては、再配置が必要だ。


 そして、『計画を立てる』という別件の用紙にもなる山場なのだが、これがまた面倒事を呼び込む、実質戦争だ。熟練した指導者であれば、よくもこう取らぬ皮算用で暴れられるなと見守っていられるが、それは共通意識があっての賜物だ。知識はおろか経験も少ない人間たちで議論をするとなれば、思想の違いや個人の考え方の齟齬により、喧嘩は必須級。少なくとも銀堂家ではそれが常で、止めるには強力な思想か、信頼できる知識人の口添え、最終的にはフィジカルで抑え込む。


 とまあ、他にどんなことが起きるかは個人の想像に任せるとして、正直、ここまでのことを成立させるには一週間は欲しいところ。それを宣言通り、三日以内に終わらせようと考えているんだ。自分の傲慢さと過信さには、呆れるところがある。


 ――――などと、先のことを考えていたのだが……。


「実業部門のリーダーは俺でいいか」

「ダメで元々、あんたのケツ叩きだけは任せて」

「優良な実践経験ができるなら何でもいいよ。どうせ失敗はつきものだしよ」

「では、機械系と情報系はうちらで請け負うわ」

「それじゃあ、僕たちは学びをまとめるお仕事でもしてますか」


 と、真に過信すべき人間たちを間違えていたようだ。


 もちろん他にいた人間たちも自分はこれがやりたいと発し、そこをベースに三つの組織ができて、時にメンバーを交換する制度を構築。壁となるはずの項目はあっさりと突破され、午後の時間になるときには書類の欄が埋まっていた。


 その状況に自分は「もう少し考えたほうがいいんじゃ」と進言した。しかし、逆に「師匠が言ったんだぜ、書類物っていうやつは暫定でもいいから早く出せって」と過去の自分の進言により、直近の発言は粉砕された。理事が目論んでいた追加仕事ルートへと無邪気に押し込まれる形となった。


 結果、その内容がほぼ正規の内容となり、実質一日もいらなかった。


 それで決まった内容は、以下の通りだ。


 組織は大きく分けて三つ。のちの『魅音座』『サテライトビジター』『源游会』の前身となる『実業部門』『マーケティング部門』『記録部門』が設立。


 実業部門には、言い出しっぺの松木戸清史郎、メインの補助役で蒼井志穂、潮崎大介が就き、追随して支持する人間がその部門へと入り、学校の活動の礎にもなる組織を結成。


 マーケティング部門は、隠森稀里を筆頭に留年体制をとっていたメンバーでまとまり、活動するための情報、機材の調整を行う集団として活動開始。


 記録部門なんだが、あのテロを起こした来栖川瑞希が固定で、それ以外は二つ部門との交換が多く行われ、言葉だけじゃない経験を積み重ねる記録活動を行っていた。


 こうして三つの部門を総合して、皆で『源遊会』と呼ぶことにし、意味としては『遊びを源に活動する会』として、その名を組織全体に刻んだ。


 でも、まさかこの名前が将来、道を失った姿で再会することになろうとは、当時の皆も自分も想像などしていなかった。

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