キジムナー、VTuberになりました。

ショーやん

本編

プロローグ その1

 朝7時。

 7月の沖縄、夏真っ只中の朝7時。

 昇ってきたお日様の光が、すやすやと眠っている人様の顔面目掛けて降り注ぐ、朝7時。

 

 ……こんなところまでラッキーセブンにしてくれなくてもいいのに。

 そんな願いを聞いてはくれないお日様は、今日も私を朝7時ラッキーセブンにたたき起こしてくれた。ありがた迷惑にもほどがある。

 

 とは言っても、いつもの私ならこのまま頭から布団をかぶって二度寝にいそしんでいるところだから特に支障はないのだけれど。だけれども、今日ばっかりは事情が違った。なぜなら――


「暑い……!暑すぎる……!!」


  ――思わずそう独り言を漏らしてしまうくらいに、暑かったから。

 いや、暑いというよりは恐ろしく湿度が高く不快感が強いと言ったほうが正しいかもしれない。

 まるで梅雨時期のようにジメジメしていて、水分が体にまとわりついてくるような感覚だった。

 

 こんな状況でも寝起きの体の重さが勝っていたから、しばらくはベッドの上でごろごろと寝転がっていた。

 だけど数分もしないうちに、寝汗と湿気でべっとりと張り付いてきやがる洋服と布団に耐えきれなくなって、起き上がる。


 起き上がる。そしてまた今日も、まるで時が止まってしまったかのように代り映えしない一日が始まってしまう。

 こんなことを考えてしまうから、私は朝が嫌いだ。

 そして、今日は特に気分が沈んでる。

 理由はたぶん、このクソみたいなジメジメのせいだ。

 

 ……お風呂に入ったら、少しはマシになるだろうか。


 となればとっとと風呂に入ってさっぱりしてやろう。

 べたべたになった洋服を脱ぎ捨てて、お風呂場へと向かう。


 ボロ家特有の、換気扇がついていないお風呂場は部屋よりもムシムシとしていた。

 だけど蛇口をひねれば、べたべたになった体と沈んだ気持ちを、その暑さごと洗い流してくれ――


 ――なかった。蛇口をいくらひねっても、ただからからと回るだけで水が出てくることはなかった。


 断水だ。なんでこんな時に限って……!!

 そういえば、天気予報で夜中に台風が通過するとか言っていたっけ。昨日の夜はお酒飲んでぐっすりだったせいで、全っ然気付かなかった。


「ってことはもしかして……」


 嫌な予感がした。すぐにお風呂場から出て部屋へと向かう。

 そして、私の1か月分の食料が入った冷凍庫を開けてみる。


 冷たい空気が手にあたる。が、長くは続かなかった。急いで冷凍庫の扉を閉じる。


 そりゃ停電もしてるよな、村はずれのクソみたいなボロ屋だし。おのれ台風許すまじ。


「……でも、これならまだ間に合うかも。に頼みに行くか……アイツが台風に飛ばされてないかの生存確認もしなきゃだし」


 電気屋機械オタクのアイツならなんとかしてくれるだろう。たぶんきっとおそらく。



 干しっぱなしのくたびれたオリオンTシャツを着て、これまた干しっぱだったトレパンを履く。姿見を見ながら、赤毛が飛び出さないようにキャップを被れば準備はOK。



 1か月ぶり――2か月ぶりだったっけ。とにかく久しぶりの外出。気分はあまり乗らないけど私のご飯がダメになったら困るから仕方ない。


 建付けの悪い玄関扉を開けると、お日様の光が私の足元を照らした。

 フクギの木の防風林。そこから漏れた日光のスポットライトを受けながら、歩く。


 ――キジムナーである私の数少ない友人に会うために。

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