やわらかな陽が

冬の影を溶かしていく


草の匂いが空に混ざり

名も知らぬ花が指先に触れた


風はまるで誰かの忘れ物のように

懐かしくも新鮮な匂いを連れてきて

君の髪を優しくほどいた


何も言わない君は

少しだけ震えていて


僕は何も言えなかった


この春、君はいなくなるのかもしれないと


そう思ってしまったから


沈黙

鼻をすする音

君の瞳が赤く染まっていく


ああ、泣いているんだ

僕の知らない思いをたくさん抱えて

この春に君は僕をおいていくんだろうか


「……あ、やば! 目薬どこだっけ」


そう言って笑った君の声が

あまりにもいつも通りだったから


なんだ

全部花粉のせいか


拍子抜けして少しだけ笑って

でもどうしようもなく



泣きたくなった

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