『夕嬢の微光』

鈴木太白の落ち込みは、千葉夕嬢がすぐに気づいた。彼女は太白に直接「どうしたの?」とは聞かなかったが、静かに彼の変化を観察していた。授業中、太白はもはや質問に答えず、ぼんやりとどこかを見つめていることが多くなった。昼休みには、彼は教室の隅で一人きりで座っており、周囲の騒々しさとまるで別世界のように感じた。放課後でさえ、彼は同級生と何も話さず、ただ急いで荷物をまとめて帰るだけだった。


この変化を見て、夕嬢は心が痛んだ。太白は自分の感情を表現するのが得意ではないことを彼女は知っていた。しかし、だからこそ、彼の孤独感は一層深刻で、無視できないものに感じられた。


放課後、夕嬢は一人で帰路についている太白を追いかけた。夕暮れが近づき、街の灯りが徐々に点灯し始め、薄暗い光の中で二人の影が長く伸びていた。夕嬢は片手にバッグを持ち、もう一方の手には二杯の温かい飲み物を持って走りながら太白に追いつき、一杯を彼に渡した。「あなたに。寒くなってきたし、暖かいものでも飲んで。」


太白はカップを一瞥し、また夕嬢を見た。彼はわずかに頭を下げ、声がほとんど聞こえないほど小さく言った。「ありがとう……」飲み物を受け取ったが、彼はそれを飲まず、ただ手に握りしめていた。


二人はしばらく無言で歩き続けた。夕嬢が先に沈黙を破った。「最近……すごく疲れているみたいだね。」


太白は歩みを止め、目を地面に落として、低い声で言った。「大丈夫、ちょっと気になることがあるだけ。」


夕嬢は彼が多くを語りたくないことを理解し、無理に聞こうとはせず、ただ優しく彼の肩を軽く叩いた。「理由は聞かない。でも、どんなことがあっても、私はずっとそばにいるからね。」その声は穏やかでありながら、確固たる温かさを感じさせるものだった。


太白は少し顔を向けて彼女を見た。口元がわずかに動き、笑おうとしたように見えたが、結局笑えなかった。彼は小さな声で言った。「夕嬢……どうして、そんなに僕に優しくしてくれるの?」


夕嬢は少し困ったように笑って、でもどこか隠れた感情がこもった表情で言った。「あなたが一人で沈んでいるのを見たくないから。もし誰も助けてくれないなら、私が手を差し伸べるよ。」


太白はそれ以上何も言わず、頭を下げた。彼が手に持っている温かい飲み物は、手のひらの温度によって少しずつ暖かくなり、彼は指でカップのふたをくるくると回しながら、無言で沈黙の中に隠された感情を感じ取っていた。


翌日、夕嬢は太白に少しでも前向きになってもらおうと、引き続き努力していた。昼休み、彼女は再び彼のそばに歩み寄り、椅子を引いて座った。「太白、明日は週末だし、外に出てみない? 家にこもってばかりじゃ、気分も晴れないよ。」


太白は眉を少しひそめて、少し疲れたような目で夕嬢を見た。「外に出る?」


「うん、実は学校の近くに小さな本屋さんがあるんだ。そこでは無料のお茶とお菓子も出してくれるの。あなた、静かな場所が好きだよね? きっと気に入ると思うんだ。」夕嬢の声は明るく、少し期待を込めていた。


太白は少し迷った後、結局首を振った。「ごめん、ちょっと行きたくない。」


夕嬢の笑顔が少し固まったが、すぐに元通りになった。「大丈夫、もし気が変わったら、いつでも言ってね。私はいつでも待ってるから。」


放課後、夕嬢はまた太白のそばにいた。二人は言葉少なに歩き続けたが、その無言の時間は不思議に心地よかった。角を曲がったところで、夕嬢が急に足を止め、反対側の通りにあるケーキ屋さんを指差した。「昔、ここの小さなケーキが好きだったよね? 今日、新作が出たみたいだよ。私が奢るから、食べに行こう。」


太白は彼女の視線を追って、数秒の間を置いた後、うなずいた。「うん、行こう。」


これが太白が初めて明確に答えた瞬間だった。夕嬢の目に一瞬喜びが浮かんだが、それをあまり表に出すことはなかった。二人は店に入ると、クリームとコーヒーの香りが漂う温かな空間が広がっていた。太白はストロベリームースケーキを頼み、夕嬢はホットチョコレートを頼んだ。


窓際に座り、夕嬢は静かにケーキを食べる太白を見つめた。彼はとてもゆっくりとした動作で食べていて、まるで時間を引き延ばすようだった。夕嬢は思い切って尋ねてみた。「どう? 美味しい?」


「うん。」太白の声は小さく、その後、フォークを置いて窓の外を見つめた。彼の目は街を歩く人々に向けられ、何かを探しているようでも、また何も見ていないようにも見えた。


夕嬢はそれ以上尋ねることなく、話題を変えた。「実は、太白、ずっと言いたかったことがあるんだ。」


彼は顔を向けて夕嬢を見た。


「あなたは、自分の苦しみを一人で抱え込む必要はないんだよ。時には、誰かに頼ることが大切なんだ。」夕嬢は少し顔を伏せて、声を優しくした。「あなたがどんな経験をしたかはわからないけれど、でも、もし話したいと思ったら、きっと元気になると思うよ。」


太白は驚き、そして少し苦笑いを浮かべながら言った。「ありがとう、夕嬢。でも、僕の問題はもう、どうしようもないと思う。」


「そうかもしれないね。」夕嬢の声は少し軽やかになった。「でも、私がいる限り、あなたが一人で悲しむことはないから。」


外の空は次第に暗くなり、街灯が灯り始めた。窓に映る二人の影はぼんやりとした輪郭になりながら、太白は心の中で少しだけ楽になった気がした。彼は本当に暗い影から抜け出せるのかはわからなかったが、少なくとも夕嬢の温かさが彼の心に少しだけ届いたことを感じていた。

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