パメラとの交流

ビルとパメラの結婚と、それを理由とした恩赦が行われる。


ここで帰順しなければ皆殺しだと言うビルの言葉は速やかに全国に広がり、歯向かっていた残党は一斉に降伏した。


「リッジス将軍は恐ろしいが、約束は守る」という評判は全国に広がっていた。


「今更結婚など面倒だ。

おまけに相手は自分を仇と狙う小娘。

勘弁してほしいよ」


ビルは王宮で女官長ソフィア相手に愚痴をこぼす。


ソフィアはマリー女王亡き後、その供養を弔う為、修道院に入ろうとしていたのを、ビルが奥を治めるために頼んで残ってもらっていた。


女性不信のビルには、気心が知れて話しやすい相手である。


「王国の安定の為にノーマン様が考えられた策です。

気が乗らなくても進めるしかないでしょう。

馬には乗ってみよ、人には沿うてみよと言います。

最初は気が合わなくても意外とお似合いになるかもしれません」


ソフィアは、マリー様の時のようにという言葉を飲み込んだ。


ソフィアは、マリーはビル・リッジスを愛しており、最期の言葉は譫妄のためだと思っているが、ビルは裏切られたと思っている。


あえて古傷に触れることはないと思ったのだ。


「仕方がない。

しかし、パメラとともにブルック家の女が王宮に入り、彼女らに囲まれるのはぞっとしない。

すまないが、ソフィアは引き続き女官長を頼む」


「そろそろ修道院に参りたいのですが、暫しやむを得ません」


ソフィアは裏切ったと思われているマリーの贖罪のため、求められる限りはビルに仕えるつもりであった。

そのうちに自分など不要とする時が来れば、その時に去れば良いと考えている。


やがて盛大にビルの即位とパメラとの結婚式が挙行された。


マリー女王の時と異なり、王位はビルにある。

新王朝の樹立となったが、簒奪だという反発を和らげるためにもパメラとの結婚は仕組まれていた。


宰相に任じられたノーマンの策である。


式とその後の懇親会は、ビルに引き上げられた成り上がりの貴族達と血筋を誇る旧敵方の貴族達が入り混じる空間となった。


豪華な食事に手づかみでかぶりつき、高級ワインをラッパ呑みする成り上がり者を、名門貴族は眉を顰めて陰口を叩いていた。


その混沌とした様子をビルは面白そうにみていた。


その夜、ビルはパメラと向き合った。

ブルックの籠っていた城の前で顔を合わせて以来である。


「ビル・リッジス!

女子供を人質にする卑怯者が!

わたしを抱きたければ好きにすればいい」


パメラは豪華なベッドに仰向けで転がった。


「ははっ

お前のような小娘では勃つものも勃たないわ。

お前の仕事は今日の結婚式での顔見せだ。

これで旧貴族にも和解の手を差し伸べたと示した。

それが済んだら、ここで好きにすれば良い」


部屋から出て行こうとするビルに、驚いたパメラは尋ねる。


「跡を継ぐための子供を産ませなくていいの?」


「赤子が必要ならその辺りの捨て子でも拾ってくればよかろう。

そもそも子どもが生まれても、それが俺の子である保証など無いしな。


お前がその辺りで男を引っ掛けてその種で孕ればその子を後継にしてもいいぞ。


そうだ!

親や祖父の仇討ちがしたければいつでも寝首を掻きにこい。

同じベッドで寝るなら、その前に同衾したくなるように色気を身につけて欲しいが」


はっはっはと笑いながらビルは去っていく。


その後ろ姿に枕を投げつけ、パメラは安堵したのと、自分が女として見られていない、そして貞節を信用されていないことに屈辱を感じる。


それからは、二人とも目の回るような忙しさだった。


ビルは国王としての日課を強いられ、慣れない政務に脂汗を流し、長々とした儀式に癇癪を起こした。


パメラは王妃として儀式への参列、王宮幹部、貴族や豪商などの有力者への挨拶に追われる。


夜は、早くお子を作ってくださいと言われて、王夫妻の寝室に二人とも送り込まれて、一日を終える。


当初パメラは仇だとビルを睨みつけ、口も聞かず、いつ襲われるかと短剣を忍ばせていた。


しかし、ビルは彼女を気にせず、軽口を叩いたり、労りの言葉を投げる一方、勝手に酒を飲み、ソファーで寝るか、しばしば出て行った。


朝に帰ってくると、香水の匂いがした。

どこかで女を抱いてきたようだ。


(不潔な男!

スタンリーならわたしだけを見ていたのに)


朝帰りして、すぐに寝始めたビルを見て、パメラは思う。


パメラの気晴らしは、頻繁に訪れてくるブルック一族の女衆とのお喋りである。


パメラが結婚を承知した時に、彼女らは釈放され、元のブルック邸と相当額の捨て扶持を与えられた。


話題は、昔を懐かしむこととビルやノーマン達への恨み節、新政権の悪口である。


「そうだ、お姉様、私が女当主になってブルック家を再興させてもらえないかしら」


妹がある時、パメラに頼んだ。


(敵の総大将の家を再興させてくれるかしら)

疑問に思いながら、パメラはある晩、ビルに頼んだ。


「おお、結婚式の夜以来初めて口を開いたな。啞になったかと思ったぞ。

ブルック家の再興か、いいだろう。

ブルック将軍の勇名を汚さぬような男を婿に選ばねばならんな。

我が義弟のディヴッドなどどうだ?」


意外にもビルは乗り気だった。


「敵の家を残していいの?」


「敵であったことと、ブルックが勇将だったことは別だ。

戦は終わった。

ブルックの名を残し、彼のような武人が出てくることはいいことだと俺は思うぞ」


酒を手酌で飲みながら、ビルはあっさりと言う。

この割り切り、決断力、敬愛する祖父と通じるものがある。


(こういうのが武人なのね)

パメラは少しビルを見直し、感謝した。


尤もディヴッドは婚約者スタンリーを殺した男、その彼を推薦する無神経さも祖父と似ているところがあるとも思った。


それからは夜に少し話す程度の交流を持ちつつ、暫くして落ち着いた頃に、二人はノーマンの手配により、国内融和のために、各地の巡回に赴くこととなる。


国内の政治と軍事は宰相ノーマンと近衛総監になったディヴッドに任された。


荒廃した国内の復興、新貴族がちゃんと統治しているか、旧貴族へ顔見せをすることが目的だ。


前王が使っていた豪華な馬車に二人は乗り込む。


強面の軍人らしいビルと、一回り若く、金髪縦ロールで吊り目気味の気の強そうな令嬢のパメラはとても王夫妻に見えない。


せいぜい新進気鋭の中堅軍人と初々しく、妻たろうと背伸びしている新妻か。


二人は王宮や付近で、外面良くにこやかに見送りの官僚や侍女、市民に手を振った。


「もう内戦を招かないためにも、なんとか仲良くやってくれるといいのだが」


「リッジス様が常勝将軍なのは事実だが、手段が手荒すぎる。

パメラ様が荒ぶる心を落ち着けてくれないか」


彼らはそんなことを噂している中、ノーマンは何事かを考え込みながらビルの去った方向を見ていた。


王都を出ると、二人は作り笑顔をやめる。


「これから何ヶ月もアンタとずっと一緒なんて最悪。襲ってこないでよ」


パメラは悪口を投げつけた。

これくらいで怒る男でないことはわかっている。

仇であるが、形式は夫であるビルに何と言っていいかわからなかったのだ。


「もう少し、胸や尻が出ないと俺に襲わせるのはムリだな。

ソフィアに教えてもらえ。


さて、二人きりなら何を言ってもいいが、人前では気をつけろよ」


こんな狭いところはうんざりだと、ビルは馬車を出て、愛馬に跨った。

代わりに馬車に乗ってきたのはソフィアである。

彼女は、パメラに王妃としての振る舞いを教えていた。


パメラは王妃としての役割を果たすのに、恨み言を言うばかりの祖母や一族の女は頼りにならず、前女王マリーに仕えていたソフィアと彼女の配下の女官に頼るしかなかった。


その間に、誠実で頭の回転の速いソフィアを姉のように頼るようになっていた。


「ソフィア、あの男は何故あんなに虚無的なの?

子どもはいらないと言うし、いつ死んでもいいみたいなことを言うわ。

わたしにもいつでも仇を討てと言って、隣でうたた寝しているし」


パメラの疑問にソフィアは悲しげに微笑んで答える。


「目的地までは遠いですから、一人の貧しい貴族子弟の半生をお話ししましょうか」


それからソフィアはこれまでのビルの人生を話し始めた。


「なるほどね、家族や身内もおらず、何度も裏切られてくれば人生や女に嫌気がさすかも」


「もうビル様の生き甲斐は、戦いの中だけでしょう」


そう言ったソフィアはパメラの手を取って懇願した。


「祖父や親、婚約者の仇であることは重々承知でお願いします。

どうか、ビル様の子を産んでください。


これはノーマン殿やディヴッドも願っており、この巡回の真の目的です。


愛する者ができれば、人生への希望や生きようという意欲が湧き上がるかもしれません。


本来、マリー様が担うはずだった役割ですが、不慮のことで亡くなられてしまいました。

マリー様の乳姉妹だった私の最後の望みです」


そう頼まれたパメラは困惑した。


「悪いけれど、少しは見直したけれど、一族の仇のリッジスの子を生みたいとは思わないわ。

その願いには応えられない」


「そうですか。

しかし、パメラ様がビル様の子を産めば、ブルック家の血筋が王となることにもなります。


戦は戦場で決着し、ブルック殿も思い残すことなく自刃されたと聞きます。

ならば未来を見て、ブルック殿の血を王家に残されればブルック殿も喜ばれるのではないですか。

良くお考えください」


ソフィアはそう言って下がった。


残されたパメラは、外の田園風景の中、機嫌よく馬に乗るビルを睨みつけて、じっと考えに耽った。
















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