十一、濡れたモップ
中学生の頃。田舎の学校だったので、生徒数は少なく、各学年一クラスずつ程度の学校に通っていた。お腹が弱く、よく授業中にトイレに駆け込む、というような学生であった。
その日は体育の授業中に腹痛になり、体育館のすぐ横にあるトイレを使用した。このトイレは生徒の教室からは遠く、よっぽどのことがない限りは使用することがないトイレだった。
トイレに入ると個室トイレが二つ並んだ奥の方のドアが閉まっていたので、手前の個室で用を足すことにした。
用を足しているとき、遅れて違和感を覚えた。
よくよく考えてみると、体育館を使用しているのは自分のクラスのみで、トイレに来たのは自分だけのはず。わざわざ他の学年の生徒がこのトイレまで授業中やってきて用を足すことがあるだろうか。と不思議に思っていると、
「ズジャ...ズジャ...」
という音が聞こえてきた。
どこかで聞き覚えがある音だと記憶をたどり、その音が水を浸したモップを床に擦る音だということに気付いた。何度か自分の個室の前を往復している音が聞こえ、さらには、ドアの下の隙間からモップの端の毛が見えたりもした。
こんな授業中に掃除をしている誰かがいるのか?もしかするとさっきの奥のドアの子が掃除をしているのか?でもわざわざなんで?と思ったが、一応感謝を伝えようとドア越しに「掃除ありがとうございます」と言ってみた。すると、往復していたモップの音がピタッと止まった。
おそるおそるドアを開けてみると、そこには誰もいない。隣の個室も空いている。
不思議なこともあるものだ、と手を洗いに洗面台に行くと、その脇にはモップが立てかけてあった。そのモップの先は水を吸って濡れており、持ち手の木の部分も、手の形に色が変わり濡れていた。
教員や用務員などが授業中に掃除をしていた、ということであればそれでいいが、もし違うとなると、一体誰が掃除をしてくれていたのか、少し気になった出来事だった。
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