第3話:俺、もしかしたら病んでるかも。

セバスチャンとシェリーは電車を乗り継いで、少し歩いて隼人君のアパートに

着いた。


「ただいま帰りました・・・ワイン様」


「お帰りセバスチャン・・・あなたどこに行ってたの?また向こうの世界に

帰ってたの?」


そう言ったのはワインだった。

隼人君は大学へ行っていて家にはワインと猫の似た妖精パーシモンだけだった。


「お姉ちゃん・・・」


「え?・・・その声は・・・まさか?・・・まさかのシェリー?」


台所にいたワインが、その声のしたほうを振り向いた。


「シェリー・・・あんた・・・なにしに来たの?」

「おとなしく家にいたんじゃないの?」


「お姉ちゃんが、なかなか帰ってこないから・・・セバスチャンに連絡したの」

そしたら、お姉ちゃんは隼人って人にハマっちゃって、たぶん、そっちの世界

にはもう帰らないんじゃないかって言うから・・・」


「そんなに楽しい世界なのかなって思って・・・」

「そんなこと聞いちゃったらじっとなんかしてられないじゃん」

「で、私も来ちゃった」


「セバスチャンはシェリーが来ること知ってたの?」


「シェリー様から、ご相談うけてましたからね・・・」


「なんで止めなかったのよ」


「私にそんなこと言われても・・・そんな権限私にはありませんし知りませんよ」


「なになに?私がこっちの世界に来ちゃ迷惑なの?」


「あんたが来ると、ややこしくなるでしょ」

「また、揉めるの分かってるもん」


「大丈夫だよ、お姉ちゃんのボーイフレンド誘惑したりしないから・・・」


「誘惑したりしないからって言ってる時点で怪しいの・・・」

「いつだってクチ先だけだからね・・・あんたは」


「私だってちゃんと成長してるよ」

「それよりお姉ちゃん、セバスチャンから聞いたけど処女、捨てたって?

・・・ようやくその気になったんだ」


「セバスチャンは余計なこと言わなくていいの・・・」


「言わなくても、今の暮らしぶり見てたら誰にでもすぐ分かりますよ」


「狭い部屋にまたひとり、うっといのが増えるの?」

「シェリー・・・聞くだけ無駄って思うけど、向こうの世界に帰るつもり

ないんだよね」


「せっかく来たんだし・・・いろいろ知りたいし、お姉ちゃんの処女奪った

彼氏も見たいし・・・会ってみたいし」


「あんた隼人を誘惑したら許さないからね」


「私が誘惑しなくても、お姉ちゃんの彼氏が私を好きになっちゃったら

それは、しょうがないよね・・・」


「あんたが、そういうふうになるようワザと持っていくからでしょ〜が」


「あの・・・・すいません・・・もう少し仲良くできませんかね?」

「シェリーさんが来た途端に揚げ足の取り合いですよ、おふたりとも」


業を煮やしてセバスチャンはふたりの中に入った。


「あ〜・・・そろそろ隼人がバイトから帰って来るころだ・・・」

「どうしよう、また居候が増えましたって言わなくちゃいけない・・・」


「それよりワインさんとシェリーさんを見たら隼人さんびっくりしますよ」


「セバスチャンは面白そうに言わないの・・・」


「でも・・・たしかに・・・ああ〜あ・・・」


ため息はワインだった。


そして・・・


「ただいま・・・・」


隼人君がバイトから帰ってきた。


「お帰り、隼人・・・お疲れ様・・・」


そう言ってワインは隼人にお帰りのキスをした。


「ただいま、ワイン・・・いい子にしてた?」


「あのさ、俺・・・バイト変えようかと思って・・・」

「今日さ・・・なんか隣の県のチェーン店から勉強とかっておっさんがひとり

俺のバイト先に入ってきたんだけど・・・こいつが使えなくてさ・・・」

でもって、俺より年上だからって上から目線で話しやがんの・・・頭に来るじゃん」


そう言いながら隼人君は部屋に入った。

で、目の前にいる女を見て・・・固まった・・・。


で、気をとり直して、もう一度玄関のほうを振りかえった。


「え?デジャヴ?」

「それとも幻覚?・・・・俺、働きすぎかな・・・」


「ワインがふたりいる・・・・俺・・・もしかしたら病んでるかも・・・」


つづく。


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