2句目 捕まって、斬って切って、逃げだそう
[道中に、積みあがる山は、死体のみ]
地獄のような光景であった。
体を半分に切られた者もいれば、首をはねられた者もいる。
共通している事項は、一人を除いて皆死んでいるという事であった。
そして一人というのは、男の娘ことである。
「(目をパチパチさせる)」
現実を受け入れれない、男の娘。
詰め込まれた知識もあってか、未だに現実と夢の区別が付かず。
『マスター(仮)の活動を確認』
『防衛プログラムを終了』
『身体操作権をお返しします』
「うぐっ、か、体が.....裂けるように痛いっ」
突如襲い掛かる、筋肉が切れる痛さ。
良いことと言えば、この痛みでハッキリと現実だと区別したこと。
「(180秒ほどの苦悶の表情)」
ようやく体の痛みに慣れてきたころ、
男の娘から疑問を一つ投げかける。
「なんで筒なのに喋れるの?」
『回答:自立型のデバイス』
本当に今更な質問であった。
◇◆◇
[銀筒を、質問連打で、相棒に]
座り込む、男の娘
眺めるは、手にもつ銀の筒。
「この惨状は......?」
『回答:敵からの防衛の結果』
「誰がやったの?」
『回答:マスター(仮)の肉体』
「もう少し気軽に話して」
『回答:( ´∀`)』
男の娘は考える。これが本当の気軽さだろうか。
機械音声でももっと、柔らかい感情表現が欲しいと。
「気軽さが足りない」
『[気軽さ]を検索……』
『該当するデータはありません』
『対処:感情プログラムの作成』
『容量不足:記録を消しますか?』
中には重要は記録が残っているかも知れない。
男の娘の選択は間違っていないのだろうか。
「もちろん」
『マスター(仮)の確認を認証』
『参考:男が大好きな相棒集』
『……生成中……』
『きゅわわーん、ハロハロです☆』
「チェンジ」
どうやら生成には失敗したようだ。
貴方が求めるのはもっと相棒感があるもの。
美少女系サポートはオタク系な主人公あって輝くものだ。
『……生成中……』
「チェンジで」
『……生成中……』
「チェンジで」
そう言って数十回繰り返した後。
ようやくお目当ての生成を引くことができた。
『オメーは何回やりなおすんだ(CV:杉田さん)』
「うん、満足」
『勝手に満足すんな、こっちの身にもなれッ』
「いいツッコミ」
やはり男の娘の相棒は、この声に限る。
妙な満足感を得る、男の娘であった。
◇◆◇
[周囲には、人々囲む、大ピンチ]
和服を着た人々は、男の娘を囲む。
手に持つは、十手、棍棒、刺股。
か弱き男の娘に向けていい武装ではない。
「なんか───囲まれてない?」
『まあ大量殺人犯だからな』
「なぜ教えてくれない?」
『オメーが、生成ガチャしてたからだろォッ』
確かに、と男の娘は頷く。
だが現実どうにかせねば活路はない。
最大限かわいい頭をまわして結論を得る。
「ゆる募、突破する方法」
『ビーム・刀、振り回しとけ』
「まかせろり」
『武装:ビーム・刀、起動────やべっ』
聞こえるは、間抜けな声。
ついでに倒れる、男の娘。
急に力が入らなくなり、地面を感じる。
「動けない」
『すまん。エネルギーが切れた』
ぎゅるるるるー。鳴るは男の娘の腹。
「お腹が減った......」
『ビーム・刀の使いすぎだ』
ビーム・刀は使えば使う程、お腹が減る。
要はエネルギーを馬鹿みたいに使う兵器なのである。
「......ばたんきゅー」
結果。倒れた男の娘は、捕まり、引きずられ、処刑場へ。
◇◆◇
[よく噛めば、何とかなるなる、主人公]
竹で出来た猿轡を嚙まされる、男の娘。
腕、足は縄で縛られ、動けない。
「これより処刑を行う」
「もごもご(急じゃない?)」
抗議するは、柵の向こうで威張っている男へ。
「あー、聞こえんなァ」
周囲は二寸三尺(m)の柵で仕切られ、
向こう側には、これでもかと、農人、町人が集まっていた。
「呑気な貴様にも教えてやる、貴様は死ぬのだ」
「もごもごっ(ゆるしてください)」
「人であれば話は聞くが、今回は人にあらず」
「もごもごっ(そんなっ)」
「見せしめのために、大衆の前で火あぶりだァ」
「もぐもぐっ(いやだーっ)」
足元には薪、燃料、燃えそうなゴミ。
着火すれば数分、数秒でこんがり焼けるセット。
不安定な足場だと思っていたがまさか焼くためとは。
「どうあがこうとも────って、拘束はどうしたッ」
「食べた」
「えっ、いや、竹だぞ......猿轡」
もぐもぐ。拘束具の縄も食べる、男の娘。
意外にも満足そうな顔をみせる。
「土よりおいしい」
「そうかぁ、そうだったかァ」
威張っている男は、周囲に喝を飛ばす。
「っ────皆の者ッ! 警戒態勢ッ!!」
柵の向こうから飛び散るは、敵意。
雰囲気は最悪。外に出たなら即捕縛。
だが、
「ふっふっふ」
鼻で笑う、男の娘。
もちろん脱出方法など考えてはいない。
「何がおかしいッ」
「ふっふっふ」
人生において不敵に笑っておく事こそ重要だ。
周囲が勝手に動揺し、僅かながらの時間をくれる。
「(さて、どうしよう......?)」
『俺が必要か?』
「ナイスタイミング」
『惚れてもいいんだぞ』
銀の筒にそれはない、と男の娘。
だが真実は相棒を傷つけるだけなので、心に仕舞う。
「今どこに?」
『祠の中に戻された』
処刑場から祠までは二十二間(約40m)。
武器はともかく、柵がある時点で難しい。
「ちょっと遠い」
『えぇ......』
再び、脳に響く機械音。
『移動方法の検索』
『対処:転送プログラム起動』
『目的地を指定してください』
利便性極まって、ご都合の塊である。
「どうすればいい?」
『簡単だ、俺の名前を叫べばいい』
大嘘。銀筒はすでに転送できる状態である。
通信をしている時点で場所は特定してるし、すぐにでも右手に転送できる。
ならばなぜ、
機械にあるまじき、
こんな無駄なことを、
簡単────この行為は相棒感があるから。以上。
『合わせろよ』
「もちろん」
挑戦的な相棒。うなずくは男の娘。
「ここから逃げられると思っとんのかァッ!!」
行動を阻むは、大きな柵、
「当然」
手を伸ばすは、虚空。
『俺の名は────』「───銀筒ッ!!」
逆手。抜刀するは、銀に輝く武装。
形成されるビーム刃は、乱雑に柵を、切り伏せる。
「馬鹿なっ──……」
口を開けて唖然とする、男達。
柵を踏みつけ道を作る、男の娘。
「いざ、戦闘開始ッ」
◇◆◇
[三度斬り、道なき道を、道と成す]
『どうやって逃げる?』
「正面突破っ」
『足に力入れろよ』
「もちろん」
裸足で踏み込み、地面を蹴り、大きく一歩。
「待てやァッ、ゴラァッ」
一閃。威張っていた男を両断。
半開きな肉塊を抜け、前にすすむ
─────脱出まで二十間(36m)
「ここは」「これ以上」「通さんぞッ」
二閃。多人数を切断。
邪魔な死体を蹴り上げ、前に進む。
─────脱出まで十間(18m)
『最後だッ』
前方には、村の大扉。
最後に見たのは村に連れて来られた時。
「たたき斬るっ」
三閃。大扉を一刀両断。
爆風、破りて飛び出すは、木片、留め具、男の娘。
─────脱出まで、距離は無し。
『ビューティフォ』
「それほどでも」
着地時、残心ばかりに、ビームを収める。
「これにて一件落着」
囲っていた物はなくなった。
追ってくる者は誰一人としていない。
男の娘の自由は今“ここから”始まった。
ひにん生まれの男の娘、剣術が最強なので辻斬りで無双します 上殻 点景 @Kagome_20off
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