第80話

焔side



"大っ嫌いだ"



愛しい女に言われた言葉。



そんな泣きそうな表情で、小さな声で言われて、信じろって方が無理だろ。



だがその……一番惹かれた瞳に宿る決意に俺は動けず、一人で行かせてしまった……。



クソッ!!




「で?大っ嫌いって言われたぐらいで諦めるのか、お前は?」




刺々しい声で大地が聞いてくる。




ー諦める?


ー桜竜を?




バキッとビールの缶を握り潰す。




「ふざけんなよ、諦めねぇ。絶対に」




大地を睨んで言う。



桜竜、桜竜。



今日お前はたくさんの表情を見せてくれたよな。



そのどれもが俺の心を掴んで離さねぇ。



もう一本、缶ビールが差し出される。




「しっかし、あの子は何を背負ってんのかねぇ……」




大地も自分の分のビールを開けグビグビ飲む。



俺もそれに続く。




「それがわかったら苦労しねぇ……」




テーブルに突っ伏す。



ふとした瞬間に見せる全てを諦めたような表情。



桜竜……お前は




「やだちょっと、酔っぱらってんの?焔」



「美己、お帰り」



「ただいま、大地」




美己が帰って来て、嫌な顔をして俺を見てくる。




うるせぇのが帰ってきた。




「……志郎は?」




部屋の中を見渡して聞いてくる。



そういえば……




「帰って来てねぇな」



「帰って来てないね」




"ただいま"


"お帰り"


"帰ってくる"



で、わかるように俺達は大地の家に四人で暮らしている。



時刻は0時過ぎ。



女にダラしない奴だが、夜は必ず帰ってきている。






「志郎の奴、月に1.2回だけ帰って来ない時があるよな」



「あるよね。でも帰って来た時、香水の匂いや石鹸の匂いもしないんだよね……」




二人が志郎の話で盛り上がる中、俺が想うのはただ一人。




桜竜ー。


泣いたりしてねぇか……?



お前は俺を大っ嫌いだと言ったが、俺は絶対にお前を諦めねぇぞ。











桜竜ー。

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