空にも音楽はない

この世には、羽根もない鳥が確かに存在する。


その時の祖父は、どこか遠くの空を見ているようで、私の奥底に向けて話しているようであった。

まるで、目の前の敵を睨むような。

乾いた視線を向けながら、祖父は話を続ける。

「くだらぬ妄想など、すぐに止めてしまえ。」

焼き捨てられた私の落書き。

まるで、生ゴミでも扱うかのように目の前で。

「二度と、もう叫び回るんじゃないぞ。」

私は、思い返せば絵を描いただけだった。

ぼんやりと浮かんだ鳥の絵。

目の内に映った、赤いモヤモヤに任せながら。

翼が無い事は、描いてみるまで分からなかった。

ましてや、輪郭すら欠けていただなんて。

描いた絵には確か、碌な形すら無かったと思う。

グジャグジャの。

まるで、コードが絡まったような線の群れが、きっと私の最初の絵だった筈だ。

それでも、生まれた時は。

叫んだ瞬間は、きっと嬉しかったのだろう。

私の目の中には、ずっと見えている。



バタバタとした音を飲む氷。

タバコの缶詰、不思議な風味のアルコール。

私のエネルギーは、身体の外側の世界であって。

久しぶりに、スマートフォンを触っているのだ。

ぐるぐるとした迸りを、指先で。

肌の奥を流れるようにと、つぶさに感じ取る。

ペンギンは、確かに空を飛べない。

意味のない文章ばかりが。

どんな事であっても、燃え上がってしまう。

まるで、お腹の底を引き裂かれるような。

鬱憤ばかりが積もって、何も進められない。


文字列。

颯爽と走ってゆく言葉な無意味。

ふらふら頭の中を。

泳ぐ魚を待っている。


まるで、正反対なのである。


恐喝。

時間ばかりが流れゆく。

黒い色の四角い箱。


私は今、真っ暗な暗闇の中。

駅のホームにて旅人が迎えに来るのを待つ。

それは、画面に映った文章の稚拙さのようで。

それは、飛べない鳥のように魅力的なのである。

深刻と。淡い雪の上を歩んでいく。


人生とは、壊れた時計のようなものでしょうか。


防犯ベルの音。

隙間がない。

雑然とした人混みのように冷蔵庫のような。

はらんとのゆ。


やっぱり、空にも音楽はない。

翼のない鳥すらいないのだもの。

きっと、窮屈な所に違いない。


頭の文字が増えてゆく。

はらはらひらひら掲示板の中。

なんて貧弱な私の辞書。


切実に、誰か助けて欲しい。

私が品切れになる前に、誰か誰か。

誰か、私を公園の外へと。

虎・野生の音・憧れのシネマスター。


恵みの言葉が落ちる。

指先から頭の底からからからから。

この人生にも、既に答えはない。

だから、どうしたってこれを守るしかない。

空にも、私の音楽はないのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

習作集 ポテトマト @potetomato

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る