No.17 喧嘩をやめて

「ダンテくん」


「は、はい?」


「コージローくんのクラスDと『デュエル』の練習戦をしてもらうよ」


コージロー先生が教頭室へ呼ばれた日の放課後。教頭のパブロ・アブレイユ先生にそう告げられた。


「コージローくんが来たからね、育ってきたでしょう、クラスD。より学園を良くするために「マジックコンペティ」で最下位を脱出するためにぜひお願いしますよ」


そういう事ならぜひ。と言いたい所だが、クラス同士での練習なんて近年やっていない。それを急にクラスAとクラスDで?せめてBではないのか?


「あの、せめて実力やレポートの進み具合が近いクラス同士でやりませんか?」


「それももちろんワタクシは考えましたさ、ただ…今のクラスDの授業内容はとてもレポートなどでは見られないモノがあると思いませんか?」


うーんたしかに…リーナが休憩の度に愚痴をこぼしている。唐突に授業内容が変わり、やろうと思っていた事と全く違う授業が始まると。


「なるほど…」


ただそれでもクラスCだろう。ソレを確かめる為になにもわざわざクラスAをぶつける必要がない。リオハイムは昔からこういう謎に突飛な事をやりだす。これも最低最弱の学園たる所以か?


「それじゃ頼みましたよ」


「はい…」


書類を受け取る。『デュエル』…

クラスから選抜5人。

ルールは公式と同じく10分4ラウンド制。


ご、5人…クラスAには150人以上いる。その中から5人?なんて難しい事を…


「とりあえず…明日の朝だな」


────────


『えぇ〜〜〜!!!』


まぁ、こうなるか。


「なんで『デュエル』練習しなきゃなの〜」

「そもそもなんでよりによってクラスDなんかと?」


『意味わかんなーーい!!!』


クラス全体が声を揃えて言う。この団結力を少しでもプラスの方向に向けてくれたら僕は嬉しいな。


「いいじゃない、ちゃちゃっとねじ伏せて終わりにすれば良いんでしょ」


ルーチェ・ウルシェラが発言する。

するとクラス全体がスッと静かになる。


「誰も出来ないならブーブー言うのやめなさいよ。大した魔法使えないんだし」


「…ねじ伏せるくらいはできるっつーの」


「へーじゃあアンタ選抜に選んでもらったら」

「それは先生が決める事だろ」


「自己推薦くらいは出来るでしょ。なに?もしかして人生で一度も面接とかした事ない?アンタ社会出てから苦労しそうね」


ルーチェが喋ると小競り合いというか喧嘩が絶対に発生する…!!ルーチェもルーチェで煽るな…!が、しかし…


「えーこれはあくまで練習という事で、実力優先ではないので出たいと言ってくれれば前向きに検討させていただきますよ!」


シーン、だ。A

成績優秀の優等生軍団。それは間違っていない。ただ、勉強やレポートを手際よくこなしているだけで魔法の実力はというと全然なのだ。授業にも必ず出席しているが出席しているだけでなにもしていない。

ただ淡々と卒業するに向けて仕事をこなしているようなクラス。それがクラスAだ。


「聞きますがルーチェさん、あなたはこの練習戦には出たいですか?」

「当たり前じゃない!ここにいるゴミ共よりは良い勝負出来そうだし」


空気がピリッとする。頼むから仲良くしてくれないだろうか。


「えっと、他に出たいよーって人」


「はい!」

銀髪の少女が奥の方から大きな声で返事をする。


「2人目はハナ・ガーランドさんね」

ハナさんはクラスAでも数少ない本当の優等生だ。常に姿勢が良くさっきも真っ直ぐ手が挙がっていた。


あととても将来性が抜群だ。

なにがとは言えないけど…


「『デュエル』には目がないものでね」


ふふっと笑いながら着席する。しかしこの女生徒、「マジックコンペティ」では学園選抜として『フラッグ』にも選ばれていたが辞退したらしい。当時僕はクラスDの担任だったから分からないが何かあるのか?


あれ、少し空気がまたピリッとしている。

え、なに?ハナさんも浮いてる人?こんな綺麗で優等生で華のある生徒なのに?一体なにをしたんだ。


「えっと他に…」


静寂。


耳鳴りがするほどに静かだ。こんな中からさらに3人選べと?これはキツイ、誰もやりたがっていない。

選ぶとしたら穏やかで優しそうな人にしよう。


「あーじゃあ俺出よっかな」

アフロでオレンジ髪の丸メガネくんが手を挙げる。えっと、誰だっけ。名簿を急いでめくる。


「ジャム・ジョレンテさん!3人目で!」

「はいよぉ」


ジャムさんか、印象は特にないかな。名前がすごく覚えづらいからか?


「なにか理由とかってありますか?」


「あー、あれかな。ちょっと試したい魔法がある的な」


話し方は軽いが理由としては十分だ。


「あとは、いないかな?」

またまた静寂。

少しの音も聞こえない。


「えー、週末までに出たいよって人は僕に言ってきてください!」


最後までピリピリした空気のままホームルームが終わった。マジか、リーナはこの空気を3年吸っていたのか、少し尊敬するし「ああなった」のもより分かる。


休み時間。ルーチェさんが話かけてきた。


「誰が出てくると思う?」

…タメ口はやめてほしいな…出来れば。


「対策はしておかないとでしょ?クラスDの元担任だったんなら出てくる人の予想は出来るんじゃないの?」

「残念ながら、予想は出来ません」

「なーによ使えない!」


「実際、コージロー先生が来る以前以後のクラスDは全く別のクラスだと思ってます」

「…そんなに教えんの上手いの、賢者って」


教えるのが上手いというか散々やってなかった事を今やるようになったからそりゃ伸びはするんだよな。


「まぁ、破天荒な授業をしてるらしいですけど、上手いかは、どうですかね」

「ふーーーーん」


コージロー先生と賢者の名誉の為に、言葉は濁す。


『デュエル』…どうなるかな…

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