第2話


 時間は捻じれて広がって、あるふとした時撓んで戻る。


ここに世界は繋がった。


ドローレンズの神針は空間を指し進めるだろう。銀の扉が繋がって、13番目の扉が開く。


ここは銀の柱のただ一つ、何処でもあって何処にもない。神針は指した。繰り返していた時間の中で、指した空間に扉が開いた。


それは何時かの自分自身。


それは貴方の円環の終着点、輪廻の中心に神の泥が広がって始原の水が器を満たす。


それは始まりと終わりの場所、ウロボロスの終末のその手前。


世界の歪が形をなした。




 ――ずっと歩いていた様な気がする。


自分は一体・・・森の中にいた筈だが・・・?



(森・・・?いや、馬牧場・・・だよな?)



どうにも記憶が曖昧で感覚が狂っている様な気がする。


言葉が上手く喋れずに、しかも呼吸の仕方が良く分からない、記憶が確かに在る筈なのに無意識に出来ていた事が出来なくなっていて上手く歩く事が出来ずによろけてしまう。


記憶と体が繋がらず人としての本能だけで行動するようなそんな無様な行動を是正するように体を動かす。


開いていた口を閉じて涎を拭う。


瞼を閉じて瞬きをして、眼の渇きを抑える。


手を動かして足を動かして、体のバランスを整えてそうしてようやく近くに落ちている大ぶりの枝を杖にして立ち上がる。


言葉は喋れるのが奇跡の様に思えてならない。


何かを奪われた、何かをされている。



「どくでももったのかぁ!」



微妙な活舌の悪さは未だに舌の動かし方が上手くいってない所為か。


この体の可笑しさは何らかの毒の所為なのかと敢えて周りに聞こえる様な大声で喋るもが体を駆けるだけ。


暫くの間、ただ歩くという事に悪戦苦闘をしながら周囲を彷徨う。


森の中でそうして歩いていると徐々に体の動かし方を思い出してくる。


意識的にやっていた事が無意識に切り替わりつつあるのを自覚しながらもそれでも本調子には程遠く、杖代わりの木の枝を頼りに探索をする。


そうして森の開けた場所に出くわした。


まるで人工的に作った様なおおよそこの大自然の森の中にそぐわない広場のような場所、そうして其処には周囲の巨木に負けない程の大きさの柱のような鏡があった。


思わずその鏡に触れる。



 そして気が付けば、周囲はもう森の中では無くなっていた。


周囲の森は消え去ったのは直ぐに分かった。触れた瞬間に辺りが妙に明るくなったからだ。


そうして森は柱の鏡の中にあるのみとなった。


いいや、ここは鏡の裏側なのだ。


ここは鏡の世界だ、だがこの鏡の裏側の世界は別に鏡になってはいない。


矛盾しているようだがどうしてかそう強く思った。


そうしてもう一度鏡の柱に触れてみようとした瞬間、背後から優し気なしかし何処か呆れたような声が響いた。



「ソレには触らん方が良い」


「・・・!?」



思わず息を飲んで振り返る。


其処にはまるで御伽噺の中の騎士の様な姿をした馬の様な何かに乗った人がいた。


フルフェイスの兜は返り血と思わしき血がべっとりと張り付いていて鈍い輝きを放つ鎧は澄んだ空の様な色をした装飾でともすれば儀礼用にすら思える程美しかったがそれも錆色の変色した血が台無しになっているがその様な姿になってもなお何らかの所属を示す紋章はまるで輝くように綺麗だった。


元は白い槍であっただろうなと思わしき血で濡れた槍を向けられてソレ、が自分の背後の鏡の柱を指しているのだと理解して慌てて退ける。


何故か全身の血が渇いて変色しているのに槍だけ血が流れ続けているのか?という疑問も浮かんだがあまりに神秘的な姿と単純な恐怖、体の動きの不一致により体は目の前でべしゃりと投げ出されてこれまた慌てて後ずさった。


地面に投げ出されたまま起き上がる事叶わず這いながら後ずさる様を見て哀れに思ったのかため息一つ吐いて目の前の騎士と思わしき人物は言葉を告げた。



「別にお前を殺そうとは・・・今は思ってない」


「今は!?」



思わず突っ込んだ。そしてその後口を抑える。



「そう思う時もあるだろう?」


「・・・」



さては此奴コミュニケーション取るのが非常に困難な奴か?


そうして俺が困惑し続けていると徐にその騎士は馬に乗ったまま鏡の柱へとむかっていった。



「ちょっ・・・!?ちょっとまったぁ!!」


「よいしょ」


「えええええ!?本当にちょっと待ってぇ!?」



鏡の裏から表の世界が見える。


折角会えた人があの鏡の柱で移動?するのはまずいと思い待つように言葉を発するとソレを無視して騎士は槍を鏡の柱へと突きこんだ。


その瞬間、先ほどまで自分がいた世界が凄まじい程の灼熱で焼き尽くされた。


ゴアアアアアッッ!!という轟音が鏡の柱を通して少しだけ伝わってくる。


騎士は何だかめんどくさい様な気だるげな姿を見せながら作業的に何回か炎を槍の先から放出した。


もういよいよ絶叫を上げて困惑を取り繕えなくなり地面に体をもう何なんだよという思いを込めて投げ出して大の字になった。



「もう本格的にファンタジーすぎて何がなんだかわかんねぇや・・・」


「ほう?という事はお前はここは初めてだと?」


「うっひゃぁびっくりなんですかもう森林破壊は終わったんですかやめてくださいころさないでください後ついでにいえばたすけてくださいここが何処かも自分がどういう状況なのかもまったくわかんないんですおねがいしますたすけてください」


「・・・」



いつの間にか奇行を終えた騎士は俺の傍に立っていた。


背中を起こし両手で顔を守る様にあげて目を眇めながら思わずそう言い切ると騎士は無言で顔だけ鏡の柱へと向かってしゃくりあげた。



「・・・・・・・・・ぶるる」←炎を噴き出す槍を加えた騎士の馬のような何か。時折光ってる。


「・・・・・・・・・まだ、終わってない・・・んすね・・・」


「そだよ」


「・・・結構、気やすいんすね」


「そだよ」


「・・・あ、と」


「ん?」


「たす、けてくれようとしたんですよね?ありがとう・・・ございました?」


「・・・そだよ」



ヤンキー座りをしながら何故だか異常なほど軽い感じで恐らくは親しみの様なものを込めながら会話してくる騎士・・・っぽい人に俺は取り敢えず安堵の息を吐きながら身の程の説明と救助を求めている事を幾分か喋りやすくなった舌で喋るのであった。


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