第4話 嫌な予感はよく当たる


体育館のステージ上には数人の生徒の他にひときわ目立つ髪色をした人がいた。

どうやら彼女はこの学校の生徒会長であり、この学校の理事長の娘でもあるらしい。

彼女は演台に立つと、新入生たちに向けて挨拶を始めた。


「みなさまはじめまして、私はこの学校で生徒会長をしている須藤すどう アリスと申します」


「まずはご入学おめでとうございます」


アリスさんはそう言うと、深く一礼を行った。


「この私立しりつさくらヶ丘がおか高校は、生徒の自主性を重んじ、生徒が最大限に活躍できるという校風を目指しております」


「それではみなさまのご活躍のほどを生徒会一同お祈りしております」


アリスさんは一通りの祝辞を述べると、突然目の色を変えて話し出した。


「みなさん!私にはお慕いしている人がいるんです!」


「1週間ほど前、この官崎市を襲ったシメン星人をたった一人で救った少女!」


「彼女の名前は武装少女フィーと言います」


するとこの場にいる生徒達から歓声の声が上がった。

もしかするとあの戦いで助けた生徒が何人かいるのかもしれない。


「私も自宅に帰宅する途中で、恐ろしいシメン星人に襲われました」


「命の危機に瀕していた私をあの方は颯爽と助け、やさしく声をかけてくれました」


その言葉を聞いて僕はアリスさんがあの時助けた女子高生だと気付いた。

まさかこんな偶然があるとは・・・世の中は狭いものである。


「そこでみなさまにお願いがあります!」


騒然とする会場でアリスさんはスゥっと息を吸い込み、あることを宣言する。


「この会場で武装少女フィーについて有益な情報をお持ちの方がいましたら、ぜひ生徒会室にお越しください!」


「有用な情報を持っていた方にはいくつかの謝礼と、生徒会長の権限で生徒会への推薦状を発行いたします!」


再び会場中で生徒の歓声が上がった。

それもそのはずで、この学校は県内でも有数の私立高校であり、その生徒会で活躍したものには、難関大学への進学や有名企業への就職をサポートしてもらえるシステムがあるのだ。


「これにて入学式を閉会いたします」


一瞬見せたあの目は紫姉を彷彿とさせるような獲物を探す目だった。

もし僕が武装少女フィーの正体だと気付かれてしまえば、何をされるか分かったものじゃない。

幸い変身さえしなければ性別も違うため、バレる心配はないだろう。

このまま何事もなく学校生活を送れることを祈るばかりだ。


強烈な印象の残る入学式を終え、僕は新しく入るクラスにいた。

この学校は入学試験の成績によってクラスが分かれており、最も成績の良いAクラスからEクラスまである。

僕は平凡な成績だったため、Cクラスに配属されることになった。


「一番前の席か・・・」


席順は廊下側から苗字の五十音順になっており、僕は苗字があ行だったおかげで、一番前の端っこの席になってしまった。

周りには大人しそうな人たちが座っており、ひとまず陽キャ軍団に絡まれる心配はなさそうだ。

新しいクラスに新入生たちが喜んでいると、一人の先生が教室に入ってきた。


「よしお前ら席に就け~」


教師はヨレヨレ白衣を着ており、けだるけな表情をしている。

黒髪が肩まで伸びており、目には大きな隈が見えるものの整った顔をしていた。


「私がこのクラスの担任を務めることになった黒崎くろさき亜由美あゆみだ、授業の担当は理科全般、気軽に亜由美先生とでも呼んでくれ」


「私はこのクラスが初担任になるが、この学校には5年も勤務しているから、分からないことがあったら何でも聞いてくれ」


「それじゃ何か質問はあるか?」


するとギャルっぽい生徒が座りながら手を挙げた。


「先生は何歳なんですか?」


「今は28歳だ」


続いて隣にいた仲間のギャルも手を挙げた。


「えっとぉ、彼氏はいますか?」


「・・・残念ながらいないな、学生時代から勉強一筋で恋愛をしている暇はなかったんだ」


「将来的に見つかるといいのだが・・・」


亜由美先生の表情は少しだけ悲しそうだった。

その後亜由美先生が複数の質問を答えたところで、初めてのホームルームが終わった。


「それじゃ今日はここまでだ」


「授業は来週の月曜からだから、忘れ物をしないように」


「「はい!」」


初めての学校行事を終えて自宅に帰っていると、チャーランから事前に渡されていた通信機に連絡が入った。


「大変だよあかり!君の通う学校でシメン星人が現れたんだ!」


「早く変身して助けに行かないと、手遅れになっちゃうよ!」


やはり嫌な予感はよく当たるものだ。

葛藤する気持ちを押し込め、チャーランから事前に渡されていた変身装置を胸に掲げる。


「チェンジ・フィー!」


掛け声とともに体から光があふれ、再び武装少女の姿に変身した。


「チャーラン急ぐから場所を教えて!」


「分かったよ!えっと、どうやらシメン星人は校庭で暴れているようだね」


私は足の武装にエネルギーを集中させ、全速力で学校に向かった。


学校にたどり着くと、すでに数体のシメン星人が生徒を襲っている。

ここだけ局所的に攻撃を仕掛けたということは、何か目的があるはずだ。

周りにいたシメン星人を倒すと、校庭の中心でゲラゲラと笑う一回り大きなシメン星人を見つけた。

そばには先ほどステージにいた生徒会長のアリスさんが座りこんでいる。


「ゲヘヘ!さてブラワーシュメルの野郎をやったやつはいつ来るんだろうな」


「あの方はきっと私達を助けに来られます!そうすればあなたのような野蛮な怪人はすぐにでも倒されるでしょう!」


「生意気な口を聞くなよ?小娘、お前は武装少女を釣るためのエサに過ぎないのだからな!」


「せいぜい殺されないことをありがたく思うんだな!」


「く!なんと卑怯な!」


どうやらあの怪人は私を狙ってこの学校を襲ったようだ。

見え見えの罠に飛び込むのは危険な行為ではあるものの、このままでは痺れを切らしたシメン星人による虐殺が始まるかもしれない。

私は意を決して怪人の前に現れた。


「そこまでよ!卑劣なことをするやつは私が成敗してあげるわ!」


「あぁ、フィー様やはり助けに来られましたか」


私が現れるや否や、目の前のシメン星人は名乗りを上げた。


「俺っちの名はロートシュメル将軍直属の部下、メチロンだ!」


「そう、私は武装少女フィー、あなたたちシメン星人から地球を守っているものよ」


「お前の噂は聞いている、ブラワーシュメル将軍を倒して気が大きくなっている生意気なガキってことをな」


「ふ~ん、そんなふうに伝わっているなら私の力試してみる?」


私は再び足にエネルギーを貯めると、激しく地面を蹴り上げ、メチロン目掛けて突進した。

蹴り上げた地面から土煙が上がり、一瞬にしてメチロンのそばにたどり着くと、右手の拳でパンチを繰り出す。


「は!」


メチロンに私の拳が直撃すると、その場から吹き飛び校舎の壁に激突した。


「あっけないものね」


「すごい・・・」


アリスさんはキラキラした目で私を見ていた。

私は正体がバレないように、偶然再会を果たしたかのような会話を始める。


「あなたも災難だったわね、でももう大丈夫よ」


「はい!フィー様!」


アリスさんのそばにいると、メチロンが激突したことで崩れた校舎の方から声が聞こえた。


「この程度の攻撃で俺っちを倒したと思ってないよな?」


するとメチロンは恐ろしい速度で私に接近し、右手を私のお腹にあてた。


「プロリファレーション」


メチロンがそう言うと、いつの間にか右手にチャージされていたエネルギーが放出され、私の体に直撃する。


「がはっ!」


あまりの勢いに体が宙を舞い、そのまま校門を突き抜けて住宅の外壁に激突した。


「げほ!げほ!・・・この威力は何?」


「どうだい?俺っちの生命力を活用したエネルギー波の威力は?」


メチロンの口がボロボロになっていることから、エネルギー波は口から放たれたものらしい。


「一度使うと大量の生命力を消費するから、ここぞという時にしか使わない奥の手さ」


「お前の攻撃も左手に装着した生命力を犠牲に強力なバリアを発生させる装置で防いだんだよ」


メチロンの体をよく見るとところどころ綻びが出来ている。

歩くのもやっとの状態になっており、今にも倒れそうだ。


「自分を犠牲にしたの?」


「あぁ、俺っちは所詮クローン技術によって大量に複製されたメチロン種の一人、自分の身を犠牲にしてでもお前に重傷を負わせることが俺っちの任務だからな」


「シメン星人は卑怯な奴が多いのかしら?」


「どうとでも・・・言うがいいさ」


メチロンはそう言い残して、地面に倒れこんだ。

アリスさんは重傷を負った私を見て、心配そうに駆け寄ってくる。


「フィー様!大丈夫ですか!?」


「何とか大丈夫よ」


精一杯の強がりを見せるが、実際は意識が朦朧としていて立っているのもやっとだった。


「すぐにでも手当を致しますので、私の肩に手をかけて保健室までご同行ください!」


「ありがとう・・・」


その後私はアリスさんに連れられるまま、保健室で治療を受けることになった。








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